『パラレルトゥナイト第3章:第3話』



(2)転校生たち


朝7時。日はすっかり昇っている。
蘭世は居候のフィラ、そして鈴世と一緒に朝食のテーブルに着いていた。
椎羅も一緒に座って食べている。
気が付くと、蘭世はあまり食が進まないようで俯いてぼおっとしていた。
「あらあ蘭世どうしたの?」
「ん・・・あまり食欲無くて・・・」
「新しい学校に行くのに緊張しているのかしら?」
「・・・」
やっぱりどう見ても元気がなさそうである。
「体の調子が悪いの?」
椎羅は心配そうだ。
「ううん!大丈夫、もう一回顔洗ってくるね!!」
「蘭世?!」
蘭世は立ち上がり、ぱたぱた・・・とダイニングから出ていった。
「?・・・おねえちゃん?」
「なんだか元気がなさそうですわね・・・」
椎羅と鈴世、フィラは顔を見合わせた。

「いってきまーす。」
蘭世と鈴世、フィラは玄関から一緒に外へ出た。
まだ俊とアロンは出てこないようだ。
「私、アロン様たちの様子を見てきますわ!」
そう言ってフィラは小走りで魔法の家の玄関へ向かっていった。

家の前には蘭世と鈴世のふたりきりになった。
鈴世は姉に問いかける。
「ねえ、おねえちゃん」
「?なあに鈴世。」
「・・・おねえちゃん、カルロ様とけんかしたの?」
「!?」
図星。
蘭世は思わず驚き、顔を赤くし横を向く。
「ちっ、ちがうわよ・・・」
「顔にそう書いてあるよ。どうしちゃったのさ」
鈴世は心配そうに蘭世の顔をのぞき込む。
「・・・けんかじゃ、ないの・・・」
蘭世は俯いて小声でつぶやいた。
「私が一方的に落ち込んでるだけ。」
それを聞いて鈴世はムキになって言う。
「それはおかしいよおねえちゃん!だっておねえちゃんが悲しがっていたら
 きっとカルロ様も悲しんでるよ!!」
「鈴世・・・」
言葉を継ごうとしたとき、俊達が家から出てきた。
「ありがとう鈴世。・・でも、みんなには内緒ね!」
そう言って蘭世と鈴世は皆と合流した。

俊、蘭世、アロン、フィラの4人は鈴世の通うセントポーリア学園の高等部へ通うことになった。
私立の高校は入学費が高い。
だが入学費用は魔界王家が何とかするし、蘭世の分は小説『スーパーマント』で稼いだ印税で
充分まかなえるのだった。
逆に言えばお金さえ有れば誰でも入れるようなものだ。

「リンゼくーん!」
「あ!なるみちゃん!!・・・じゃあねー僕はこっちだから!」
鈴世も一緒だったが途中で別れた。
4人ではじめての学校へ向かう。
「どうしたんだ江藤?おまえ今日は元気ないな」
俊は早朝トレーニングのときもおや?と思ったのだが、いつも笑顔の蘭世が
どこか沈んでいるように見えたのだった。
「そうかな・・・?」
蘭世はあいまいな返事とあいまいな笑顔を返すだけだった。
「あ!蘭世ちゃん、僕に婚約者がいてショック受けてるんだ!!
大丈夫だよ蘭世ちゃん、僕の花嫁はきみだけ・・・」
「アロン様!!!!!」
初登校日早々、変貌したフィラに睨まれアロンは石化していた。

なんとかフィラをなだめアロンを元に戻し、4人は校庭に着いた。
見慣れぬ4人に生徒達は遠巻きにし、ひそひそと噂をしあっていた。
「なんだか居心地悪いですわね・・・」
フィラが不安げにそうつぶやく。

「し・・・しゅん!?」
突然、遠巻きにしていた女生徒のひとりがカバンを取り落とし、こちらへ走ってくる。
「しゅーんーーーーっ!!!どこへ行っていたの!うれしい!!!!!!」
「げっ、神谷」
神谷と呼ばれた女生徒は俊に向かって飛びついてきた。
「はなせ神谷!!」
俊はやめてくれ勘弁してくれといった表情だ。
「あの・・・良かったら紹介して下さいます?」
フィラがそう俊に言う。
「私、神谷曜子。俊の幼なじみで婚約者よ!!」
神谷曜子は胸を張り得意げだ。
「婚約者さん?」
蘭世がポカンとした顔でそう聞くと、
「誰が!!違う!!神谷いい加減なこと言うな!」
俊は必死の形相で曜子を引き剥がして否定したのだった。
「ああ、また俊と同じ学校に通えるのねぇ〜曜子し・あ・わ・せ!!」
「勝手に言ってろ!」
俊はチラ、と蘭世の表情を伺う。
蘭世はどこか寂しそうな表情だ。
それは俊に婚約者?がいたことへのやきもちなのか、それとも自分一人だけがパートナーがいない事への
寂しさなのか、それとも他の事を考えているのかは俊にとっては測りかねるものだった。

「なんだ俊にも婚約者がいたんだ〜僕と一緒だね!」
「・・・殴るぞおまえ」
俊は一同を残し、すたすたと早足で玄関へ向かってしまった。
「まってよぉ〜しゅーんっ!」
その後を神谷曜子は黄色い声で追いかけていった。



「江藤蘭世です。よろしくお願いします」
蘭世は新しい教室でそう皆に挨拶をした。
蘭世と俊は高等部2年生に編入することになった。
残念なことに?俊とは違うクラスである。
アロンとフィラは1年生であった。

いつもの蘭世は元気いっぱいなのだが、昨晩の夢で蘭世はショックを受けており、なんだか沈みがちである。

休み時間、蘭世の席に女の子達が集まってくる。
「ルーマニアに留学してたんですって?すごーいい」
「ねね、ルーマニアってどんな国?」
(あ・・)
蘭世はその光景にタティアナ達を思いだした。
陽気な彼女たち。
少し蘭世は元気を取り戻した。
「あのね、とっても素敵な国よ・・!」
それからわいわいと話をし、蘭世は皆に溶け込んでいった。

それから蘭世はボクシング部を立ち上げた俊を手伝うことになった。
部員は俊、アロン、そして日野という生徒。
マネージャーが蘭世、フィラ、そして神谷曜子だった。

蘭世に対するクラスメイト達の第一印象は
”影のある美少女”
という感じであった。
本当は明るい娘なのだが、カルロとのことが表情に微妙に影を落としていたのだ。
そのことがまた男子生徒達の注目を集めるのに拍車を掛けている。
一方俊もその学園には珍しく、ワイルドでかつ男前ということで早くも全女生徒達の
あこがれの的になっていった。
アロンもハンサムボーイでファンが多い。
フィラもおしとやかでかわいらしく男女ともに好印象だった。
とにもかくにも、注目度満点の転校生達だった。


 夜が来て、蘭世が眠りにつくとき。
カルロが夢に出てくるのには、一定の法則があった。
もちろん生命の神から伝言があるときはどんな夜でも現れるが、
それ以外はそれなりに”おまじない”があった。
眠りにつく前に、”ダークに会いたい!”とはっきり願うのだ。
疲れて眠りについてしまったり何も考えていないときは
朝まで夢を見なかったり別の夢だったりするのだった。


前に夢であったときの件から、蘭世の心は揺れていた。
(立場がはがゆいことだ って言っていたけど・・・)
「私が他の男の人と 仲良くなっても、ダークは平気なの・・・?」
ベッドの上で膝を抱え、蘭世はぽつんとひとりつぶやいていた。

今までも、蘭世がいくら感情を荒げてもカルロは
大人の懐の広さで彼女の心を大きく包み込んでいた。
蘭世が感情的になる事にも理解をし、落ち着いてその心を受け入れてくれていた。
でも、今回はそんな冷静さが蘭世にとって物足りなく思えてしまったのだ。
(私が離れてしまっても、『しかたない』って、それだけで身を引いてしまえるの?)
目から涙が思わずひとつ零れる。
”そんなに、簡単なものなの・・・?”
(・・・なんだか、ダークに会いたいけど、会いたくないな・・・)
・・・そう思っていると、やはりカルロは現れなかった。

そうしてそんな日々が何日か続いていった。
(このまま、忘れてしまうこともできるのかしら・・・)
ぼおっとそう思うことすらある。

いつかは冷める夢。
そんな言葉が蘭世の胸に重くのしかかっていた。

つづく


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