『パラレルトゥナイト第3章:第4話』



(1)その後


アロンの一件があってから、俊は必ず蘭世を連れてから部室へ行くようになっていた。
委員会があるときも俊は遠く離れた廊下で終わるのを待っているのだ。
(当然神谷曜子もそれにくっついている。)
アロンの方はフィラが今まで以上にがっちり押さえている。
「彼氏面すんなよ!」
とアロンが不服をいえば
「お前また石化したいのか」
と鋭く返り討ちにする。
「神谷曜子はどうなんだよ」
「あいつは問題外」
「きーっ!俊!!今なんて言った!!!!」
そんなこんなで、
”真壁俊の彼女は江藤蘭世or神谷曜子、どっちかなぁ?”
という話題が学園内のあちこちで持ち出されるようになっていた。

そして、当の蘭世は。


ある日。
図書委員が終わった時、やはり俊は廊下で待っていた。
いつもくっついてきている神谷曜子の姿は今日は見えなかった。
「神谷さんは?」
「備品の買い出しに行ってる」
「そう・・・」
俊は蘭世が近づいてくるのを見ると1メートルほど先を歩き始めた。
「ごめんね真壁君・・・」
蘭世はその背中に声を掛ける。
「真壁君、気持ちは嬉しいけど・・・トレーニング時間が減ったら
なんだか申し訳なくて。あの、私は大丈夫だから!」
それに俊は振り向かず答える。
「遅くなるのは毎日じゃねえし、30分くらい大してかわらねえよ」
そう言われても蘭世は納得できない。
自分のせいで俊のトレーニング時間が減るのは良くない!とずっとずっと気に掛けていたのだ。
「でもね、私、真壁君の夢の障害になりたくないよ・・・!」
そこで俊はぴたっ と立ち止まった。

いいムードになるはずだった。

だが、蘭世が思わず口を滑らせた。
「私だったら他にも護ってくれる人がいるし、本当に平気だから・・」
「カルロのことか?」
「・・・」
しまったと思ったときは遅かった。
(折角心配してくれてる人にこの発言は無礼だわ!)
振り向いた俊の顔は少し怖かった。
「人間界のことは俺達で解決するんだ。カルロの力なんか借りるな」
蘭世は小さくなり俯く。声も小さくなる。
「・・・すみません・・・」
「いくぞ。」「うん・・・」

真壁君は今は人間なんだ。
”人間同士のやりかたで生きて行くんだ。”
俊の言葉はそんな風に蘭世には聞こえていた。

また俊は先を歩き出した。
二人とも無言のまましばらく歩く。
再び口を開いたのは蘭世の方だった。
「あの・・・」
「なんだよ」
「やっぱり少しでも真壁君の練習時間減らさないほうがいいと思うから、
今度同じ委員の小塚かえでちゃんに一緒にいてくれるようお願いしようかな」
また俊の歩みが止まった。
「!!」
突然俊は振り返ったかと思うと、蘭世の両肩を掴んで壁に押しつけた。
蘭世はびっくりして息が止まる。
俊の真剣な瞳が間近に飛び込んでくる。
「・・・俺の気が、すまねえんだ」
「真壁君?・・・」
「俺は今まで江藤に厄介かけてばっかりだ。たまには、俺にも、お前を守らせてくれ・・・!」
「・・・!」
蘭世は声も出ない。
我に帰った俊はぱっ、と蘭世から手を離した。
「・・・おどかして悪かったな・・これじゃ逆効果だ」
そう言って俊は俯き横を向いていた。
前髪に隠れてよく見えないが、顔を赤くしているようだ。

私は、なんて言葉を返したらいいのだろう。

「わたし・・・。」
「いい、何も言うな・・・行くぞ」
「はい・・・」

俊が再びくるりと背を向けポケットに両手を突っ込んでいる。
先ほどよりも俊の歩調は上がっていた。
蘭世はどきどきする胸を抱えながら、その後ろ姿に小走りでついていった。

(なんだか、私・・・)
俊の広い背中を見ると、さらに胸の鼓動が上がってくる。
俊はアロンと違ってあからさまに好意の感情を表に出したりしない。
その俊が、たまにこうして気持ちをぶつけてくる。
その”気持ち”も、俊自身もはっきり自覚していないのか
感情を抑え込んでいるのか、鈍感であれば”好意”とはとれずただの親切心にもとれる微妙な、
危ういバランスの上に揺れていた。
蘭世はその俊の”感情”に触れるたびに胸のときめきが抑えられなくなるのだ。
無意識に、蘭世はカルロとは違った意味で俊に惹きつけられるものを感じていた。

(こんな気持ちって、いけないコト・・・?)
だって私には・・・
そこでまた再び天上界にいるカルロの言葉を思い出す。
『他の男と幸せになるなら・・・』

(きゃーっ! だめよぉ!!)
蘭世は思わず立ち止まり両手で頭を抱え左右に振りまくっていた。

「ちょっとあんた、そこで何やってんのよ!」
「へ?」
気が付くと目の前に神谷曜子が立っていた。
腕一杯に買い物袋を抱えている。
「ぼおっとしているんだったら手伝いなさいよ!重かったんだから!!」
「ごっ!ごめんなさい!!神谷さんご苦労様・・・!!」
蘭世は一番重そうな買い物袋を一つ曜子から受け取り、彼女と並んで部室へと入っていった。


つづく


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