『君の瞳に天国が見える〜ときめきアナザーストーリィ〜』



(0)序章



−ここは天国です。−

生命の神様は天国の中央にある天空の神殿に
独りでお住まいになっていました。
そこは、昔々は天使が沢山住んでおり、
まるでギリシャの古都のようでしたが
いつしか天使達はひとり、ふたりと地上へ降りて行き、
残るのはがらんとした神殿だけでした。

ある日生命の神様はあまりにも寂しいので、
新しく天使をお造りになりました。
天使はふたりです。

ひとりは女の子の形をしており、長いストレートで明るい栗色の髪と
色白の肌をしておりました。歳は16歳くらいです。
もうひとりは男の子の形をしており、金髪のおかっぱ頭の美少年でした。
歳は8歳から10歳くらいに思えました。

どちらも天使の証拠に天空の青空に似た青い瞳と
銀白の美しい翼を持っておりました。
翼は日の光を受けて羽ばたくたびにキラキラと輝きます。

ただ、どちらも生まれたときからその年格好だったし、
男女の差も外見で想像する以外は根拠がありません。
 どちらかというと少年の方がしっかり者で、
ドジであわてん坊の少女の方が
いつも少年にフォローされていると言う感じでした。

 どちらにも名前など有りません。
ただ、年格好からして少年が少女のことを
「おねえちゃん。」と呼び、少女の方はなんとなく
「ねえ。」とか「あのねー」
などと少年に声を掛けておりました。

ある朝のことです。
少年と少女は朝のお祈りをすませた後、神殿の広い広い中庭で
部屋に飾る花を摘んでおりました。

白い百合の花。ピンクのかすみ草。
しろつめ草も沢山摘んで、少女はこれを冠にします。
「ほらっ。かわいいわー!」
少年の金色の頭にそっと載せると少女はにっこり微笑みます。
「わーい。おねえちゃんありがとう!」
少年はうれしくてぴょんぴょんはしゃぎまわります。
とても無邪気な二人です。

ただ、最近少女はなんとなく心に空しい想いを抱いていました。

ここは天国です。とても満ち足りた空間です。
いつも暖かい光が降り注ぎ、暑くもなく寒くもありません。
苦しいことも何もなく、毎日、朝は気持ちよく目覚め、
定時刻にお祈りをして、夜が来れば眠ります。
そして、いつもそばにはとてもかわいい弟のような天使がいます。

ただ、生命の神様は確かに神殿の奥に
いらっしゃるようなのですが、一度も
お姿を拝見できたことはありません。

それでもなにもかもが幸せのはずでした。
でも、なにか心にぽっかりと
いつも穴が空いている気がしています。
そんな想いが時々やってくると少女は窓辺に手をつき、
そこから窓の下をぼおっと見つめます。

窓の下は高い高い塔のよう。
遙か下まで青空に綿のような白い雲が重なっているばかり。

ある日、やっぱり窓辺から下を覗いていた少女はおもいきって
そこを通りかかった少年に声を掛けました。

「ねーえ。」
「なあに、おねえちゃん?」
少年は立ち止まりました。
少女は、俯きながらぽつりぽつりと言います。
「あの・・ね。雲の下、って、どうなってるのかなぁ?」
少年はびっくりします。
「どうっ・・て。おねえちゃん知らないの?」
「うーん」
少女は困った顔をして頭をかきます。
少年は少女の隣に並びました。
一緒に窓の下をのぞき込みながら答えます。

「生命の神様が作った”地上”が有るって聞いたよ。」
「チジョウ?生命の神様に聞いたの?」
「うん。ちょっと前にね。」

少女はハタと気づき、顔を上げます。
「え!?待ってよ。生命の神様とお話ししたことあるの!?」
「なあんだー。おねえちゃん知らないの?
お祈りの時に一生懸命呼びかけたら
心の声で答えて下さるよ」
少年はとっても得意げにウインクをしました。

「で、チジョウってなに?」
「あのね、僕やおねえちゃんみたいな形をした”人間”
が沢山いるんだって。
でも 羽根が無くて飛べないらしいよ。」
「すごい!!沢山?」
少女の顔はわくわくキラキラと輝きます。

「ねえ!行ってみたい!そこへ!!」
(これだわ!これなんだわ!!・・・私の求めていた物!!)
思わず少女はスキップでそのあたりをくるくると踊り回ります。
でも。
少年はあわてて言いました。
「だめだよ!おねえちゃん!」
案の定、少女はプーと膨れます。
「どうして!?」
少年は顔をこわばらせて言いました。
「あのね、地上には怖いことや苦しいことが沢山有るんだって。
人間だけじゃなくて魔界の悪魔たちもうようよしていて、
僕たち捕まったら食べられちゃうんだよ!」
「え・・・」
少女はがっかりしました。
やっぱり食べられてしまうのは怖いと思うのです。


それから、それでもあきらめられず少女は毎日窓の下を眺めます。

弟の天使以外に他の人物を見たことがありません。
天国の神殿以外の風景を見たことがありません。
どんな感じがするんだろう?
どんな風景が広がっているんだろう。

・・・ある日、ついに少女は決心しました。
お祈りが終わった後のことでした。

「ねえ。私ね、地上をのぞきに行こうと思うの」
「おねえちゃん・・・・」

毎日窓の下を覗いてはため息を付く彼女を見ていたので、
いつかはそう言うんじゃないかと少年は思っていました。

「でも、危ないんだよ!?」
「うん。わかってる。・・・だから地上には降りないで、
 地上が見えるところまででいいわ」
少年は腕組みをして俯きしばらく考えます。
・・・しばらくして少年は顔を上げました。

「わかった。僕がついていってあげる。」
「いいの!?」
「うん。だけど、ちょっとだけだよ?すぐ戻るんだよ?」
「わーいい!!!ありがとう!うれしいわ!」
少女は思わず少年のちいさな肩に抱きつきました。

その日のうちに二人の天使は神殿の門まで行きました。
そこで少年は後ろを振り向きます。
さらには突然、大声を張り上げました。

「あの!ちょっと下を見てきます!!
すぐ戻るので心配しないで下さい!!」

少女は面食らいます。
「・・・え?誰に言っているの?」
少年はちょっと赤くなってつぶやきます
「・・・生命の神様に、だよ。一応挨拶しとかなきゃ」

二人の天使は雲の間を羽ばたき降りてゆきました。
2対の銀白の羽根が日差しを受けて、
キラキラ輝きながら小さくなっていきます・・・


つづく


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