『君の瞳に天国が見える〜ときめきアナザーストーリィ〜』



(1)雲の下は



二人の天使は銀白の翼を羽ばたかせながら
天空の神殿から下界へと向かってゆきます。

しばらく降りていくと、大きな大きな雲に出逢いました。
「よし、おねえちゃん、これを突っ切るよ!」
少年の天使が少女の天使に呼びかけます。
「うううーこわいよお!」
少女は神殿から出たことはなく、
雲まで飛んできたことがありませんでした。
初めての体験におもわず目をつぶり少年の手を握ります。

「大丈夫!。せーの!」
ばふっ。
雲に入った途端、二人の頬に、腕に、髪に
細かい水の粒がさらさらと当たります。
二人の髪は風に巻き上げられキラキラとうねり輝きます。
それはおもったより気持ちよいものでした。

突然二人の視界がぱあっと明るくなりました。
雲を突っ切ったのでしょうか。

「うわあー!す、すごい・・・!」
おそるおそる目を開けた少女は眼下に広がる景色に驚きました。
まだまだ二人は天空高くあり、雲があちこちに飛んでいます。
でもその下には見渡す限り茶色と緑の地面がひろがっていたのです!
神殿の敷地しか見たこと無かった少女にとってそれはとても
すばらしい体験でした。

「ねえ、あの白い砂粒みたいなののかたまりは何?
 ゆっくりと動いているわ」
「あれは羊の群だよ。」
「じゃあ、あれは?」
「たぶん町だと思うよ。そしてあれが山、あれが川・・・」
少年はたいそう物知りでした。
わくわくしながら少女は少年に沢山のことを聞きました。

「おねえちゃん、あの雲で休憩しよう!」
少年は少女の手を引き大きな綿雲に乗りました。
二人は大の字になりころころと雲の上を転がりました。

もう少女は幸せ一杯です。
「うふふ。気持ちいい!!!」
雲の上に俯せになり頬杖をついて下界を眺めています。
そして足をぶらぶらさせておりました。

「・・・・ねえ、あれ、何?」
「ん・・・?」
少女は少し離れた下の中空に何かを認め、指さしました。
同じ格好をしてくつろいでいた少年もそちらへ目をやります。
なにやら黒い雨雲のかたまりのような物が
北東の方角へ移動していきます。
「!!おねえちゃん伏せて!!」
「え?え?」
少年は真っ青になり少女の頭を押さえつけ、
自らも身を低くします。
「・・・百鬼夜行だ・・・・」

少女は身を低くしながらも目を凝らしました。
なにやら黒雲の上にうようよと蠢く物達がおります。
カエル、蛇、トカゲ・・・
そういった物が二足歩行し、服を着ているようです。
中には腹の大きな子鬼、角が二本ある赤鬼、
そして訳の分からないおぞましいものが
うようよしているようでした。
「うーっ こんなとこで遭うなんて。
神よどうかお守り下さい・・・!」
少年はどこから出したのか聖書を手の下に置き
お祈りを捧げていました。

少女も思わず目を背けようとしました。
だけど。
なにやらその異形の物達の中心に、
輝く銀の馬車が有るのが見えたのです。
馬車は竜のような化け物が2匹で引いておりました。
馬車には屋根が無く、そして、少女は、
その台座の上に何か人影を見た気がしたのでした。

少女はもう一度人影をよく見ようと目を必死に凝らします。
「・・・・あ!」
確かに。
それは人の形をしておりました。
そして、遠目にも金色の髪が輝いていたのです。
男性で、少年天使よりも大きな人物に見えました。

「・・ねえ、あそこにほら!ほら!人が乗ってるわ!
 私たちと形が同じよ!!」
少女は興奮して少年の肩を揺らします。
少年は眉を曇らせました。
「おねえちゃん。あれは悪魔だよ。悪魔のダーク=カルロだ」
「え・・・?」
物知り少年は続けます。
「きっと今日も魔界の城を抜け出して捕まったんだろう。
 魔王ゾーンはカルロを溺愛していて
 一歩も外に出そうとしないけど、
 カルロはいつも脱走を続けてるんだ。
 カルロは大した魔力もないけど、何故か魔界中が彼に
 振り回されてる。
 間違っても近づいちゃいけないよ」

そんな少年のうんちくも少女は半分くらいしか耳に入りません。
(もっと、もっと近くで見てみたい・・・!
私たちとそっくりなその人を!!)
思わず、ずんずん少女は雲から身を乗り出していきます。

そして。

「きゃああ!」

「おねえちゃん!!」

少女は雲から手を滑らせ下へと落ちてしまいました。
少年が手を出すも間に合いません。
下は丁度百鬼夜行の通る道です・・・

気流にあおられて少女は羽ばたき直すことが出来ません。
もみくちゃになりながら下へ下へとずんずん落ちてゆきます。

「どうしよう!魔物に食べられちゃったらどうしよう!!!」
絶望的な思いのまま、少女は落ちてゆきました・・・。

つづく


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