『君の瞳に天国が見える〜ときめきアナザーストーリィ〜第3話』



(1)雨雲の神



死神ジョルジュは霧立ちこめる館の前に来ておりました。
「きっとここにちがいない・・・」
古びた館の玄関にある、ひときわ古く大きな木の扉の前に
立ち止まります。

この地方では珍しく長雨が続いておりました。
ジョルジュのローブも細かい雨にあたって
徐々にですが、しっとりと重くなっておりました。

右手をその扉のノブにかけようとした途端。
「うわっ」
すっとその扉は20センチほど開きました。
扉にぶつかりそうになりあわててジョルジュは下がります。
「・・・」
ドアの隙間からは。
かの悪魔が顔をのぞかせておりました。
「やっぱり人間界に戻っていたんだな。・・・カルロ。」
「・・・しばらくぶりだ」
カルロは口の端でニッと笑ったようでした。
夕方も近く、雨で曇っているせいもあり、あたりはもう薄暗いのですが
カルロは黒いサングラスをかけておりました。
「カルロ、お前それじゃまわりが見えにくくないか?」
「お前は私の魔法にかかりたいのか?」
そこでジョルジュは悪魔カルロの魔力の噂を思い出しました。
・・・目があった者の心を虜にしてしまうその瞳・・・。

カルロはおもしろそうな表情をしてサングラスを外そうと
柄に手を掛けます。
「試してみるか?」
「うわっ・・やめろやめろっ。いい、かけとけっ」
ジョルジュは大慌てで手を振ります。
「おれにはもう嫁さんも子供もいるんだ。勘弁してくれよ!」
カルロはクスクス笑っておりました。

ここでジョルジュはハッと我に返ります。
「・・・そうだここに来た理由は!」
カルロの表情から笑みが消えました。
「蘭世ならお前に会う必要はなくなった」
「どういうことだそれは!」
カルロは玄関から出て後ろ手で館の扉を閉めました。
「待てよ、蘭世は起きてるんだな?
 彼女に会わせろ、事情を説明するんだ」
ジョルジュは思わずカルロの肩に片手を掛けぐっと引き寄せます。

その途端。

ピシーッと鋭い音がし、玄関脇にあった立木が燃え上がりました。
「うわっ なんだ!?」
ジョルジュはぎょっとし5,6歩下がりました。
ポーチから離れジョルジュは雨に当たります。
「なに、ただの雷だ。」
カルロも雨の当たる場所まで出てきました。
 緩く腕を組みニッと笑ってジョルジュを見返します。
「外で私にたやすく触れぬ方がいい。雨雲の神は嫉妬深いからな」
「なに!? じゃあこの雨は・・・」
「私が頼んでおいたのだ。」
「おまえ雨雲の神まで誘惑したのか・・・。でもなんだってそんなことを」
「吸血鬼は日差しが嫌いだろう」
「でも蘭世は確か日光は平気だろ?」
「・・・体質が変わったようだ。彼女は今、正真正銘の吸血鬼だ」
「はあ?」
ジョルジュはさらに面食らいました。
「驚くことばかりだな・・・お前まさか何かしたのか?」
「さあ。私にもわからん」

「そういえば何時にも増して魔界の連中がうろついているぞ」
「・・・知っている。だからこうして結界を張っている」
カルロは蘭世のいる部屋に結果を張っておりました。
「今もこの場所は霧が結界の代わりをしている。ただもう夜になると
 効力が無くなる・・・もうこれ以上話す事はないな」
「おい!カルロ待て!」
背を向けたカルロの肩をまた掴みます。
すると。
どどおんと轟音がして庭の立木の一つが落雷で切り裂けました。
ジョルジュは驚いてパッ と手を離しました。
カルロは空を見上げます。
「・・・あいつ、私以外の全てを燃え尽くす気かな」
「〜〜〜っ。なあ、たしか雨雲の神ってさぁ」
「タマサブローを小さくしたような奴だ」
「お前本当に節操というものがないな」
「誤解するな。サングラスを外して一言頼んだだけだ」

ジョルジュは気を取り直して問いかけました。
「・・・何故いまさら蘭世を起こしたんだ?蘭世の気持ちはもう
 解っているはずだろう?お前だって気持ちの整理はついてたんじゃ
 なかったのか?」
「シュンはもうこの世にいない。そして私と蘭世はまだこの世にある。
 蘭世はこの世での幸せを考えてもいいはずだ」
カルロはいたって冷静に口上を述べます。
ジョルジュはそんな彼に腹が立ってきました。
「だが蘭世は俊の処へ行きたいと言っていたろ?
 今だってそう思ってるはずだ」
「・・・悲しい過去は覚えていなければそれでいいだろう?」
「なに?どういうことだそれは」
「・・・わからないか?今の蘭世には記憶がないのだ」
「なんだって・・・!?」
ジョルジュは茫然としました。
「もう限界のようだ。これで失礼する」
カルロは足早に玄関のドアの向こうへ消えました。
「おい待てよ!!まだ話が・・・」
あたりは既に漆黒の闇が降りてきていました。

すると。
1匹、2匹・・・と魔物達の姿が見え始めます。
「あ、コイツ死神ダ」
「ホントダホントダ」
「オイ、オマエカルロ殿ノ知り合いダロ」
「カルロ殿ノ居場所、知らないカ」
ジョルジュは咄嗟に嘘を付きました。
「・・・知らない。俺も探しているんだ」
「ナンダー」
魔物達が遠くへと飛んでいきます。
(カルロをかばったんじゃない。蘭世を守るためだ)
そう思いながら暗い館を見上げました。



同じ街の屋根の上。
魔物達が座り街を見下ろしています。
人間ほどの大きさの怪獣と年格好の若い魔女が
並んで屋根に腰掛けておりました。
魔女はくせ毛でおでこが広く、眉毛の太いのがチャームポイントでした。
そしてその広い額の中央には豪奢な額飾りが付いておりました。
「死神がうろついてるわね」
「死神なんて関係ねえ。奴が用があるのは死人だけだ」
「・・・」
魔女は考えを巡らせます。
(でも、もし死神のターゲットがカルロ殿だったら?
 黄泉の国までは追っては行けない・・・行ったら戻れないもの)

「なあ、三つ目さぁ、カルロ殿と羽根のないねえちゃん天使の行方、
 おまえの千里眼ですぐ見つけられるだろぉ?
 だからオマエにくっついてんのにさー」
「待ってよ。うるさくって集中できやしないわ」
三つ目と呼ばれた魔女はじろりと怪獣をにらみつけます。
三つ目、と言っても見ためは普通の二つの眼でした。
どうやら3つめの”目”はどこかに隠しているようです。

「カルロ殿でも天使でもどっちでもいいや手に入れたら不老不死だぜ!
うわさでは天国には天使があの2匹しかいないって話しだしさー」
「・・・うるさいっていってるでしょ!
 空気がざわついてわかりにくいのよ」
「けっ!役にたたねえ!!」
そう言い捨てて怪獣は飛び去ってしまいました。

「甘いわねえ・・・ふふん。」
三つ目は額飾りを外しました。その下からは三つめの”目”が
現れたのです。
その”目”にこそ、強い妖力があるようでした。
三つ目の魔女は、体よく怪獣男を追い払ったのです。
そして、その3つ目の眼がぎらりと光ります。

「さあ、どこにいるの・・・?」
三つ目の”目”の強いまなざしが、夜の街に注がれていくのでした・・・。




つづく


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