『君の瞳に天国が見える〜ときめきアナザーストーリィ〜第3話』



(4)樹海にて



そこは大きな洞窟のようでした。
日は高く昇っているはずなのにそこは真っ暗で、
所々に小さな灯火がともっているだけです。
その洞窟の一角に、三つ目女の隠れ家はありました。


天使ランゼは先ほどから涙を流し続けていました。
あとから、あとから。
それは止まる様子もありません。
目の前で繰り広げられている光景が原因でした。

大事なあの人が。
いとしいあの人が、いまいましい女とひとつのベッドにいるのです。

そして、自分は両手首を縛られ、その手首を縛った紐で
天井から吊されたまま身動きもできません。
必死にもがき、手首はこすれ、吊している紐に血が色濃くにじんでいます。
叫びたくても口にも猿ぐつわをかまされています。
目を閉じてもそらしても、あの女の睦声が耳に入るのです。

(いやだ! いやだよ カルロ様・・・!)



三つ目女に天井から吊されたとき、天使ランゼは聞きました。
「ここは・・・どこ?」
「私の、隠れ家みたいなものよ。
 樹海の中にある洞窟だからまず見つからないわ」
「・・・どうして、魔界へ連れていかないの?」
女はせせら笑います。
「あら、どうして連れていく必要があるの?
 ここに望みの物がすべて揃っているのに」
そう言ってカルロと天使ランゼを交互に見ます。
「カルロ殿と、不老不死の天使の生き血。」
そうして天使ランゼの口に猿ぐつわをかませてしまいました。
「さあ、しばらくそうしてなさい。血は、あとでたっぷり搾り取ってあげる」

そのときカルロは、すでにベッドの上でした。
でも抵抗することも逃げ出すこともせず、マネキンのように動きません。
そこへ三つ目女はきびすを返し足取り軽く近づいていくのです。
(いやっ!カルロ様!!逃げてよぉ!!!!)
天使ランゼは必死にそう言おうとしますが口が塞がれうまく言えません。
「良い子ね、あなた。ちっとも逃げようとしないのね」
三つ目女はそう言ってカルロのいるベッドに上がりました。
「・・・拒否したところで、お前は力ずくでそうするだろう」
カルロは冷たい無表情でした。
「本当によくわかっているのね。おかしいくらいだわ」
それでも三つ目女はカルロの上にのしかかっていくのです。

(カルロ様!!だめえっ!!)

ギシ!ギシ!
天使ランゼは縄から抜けようと必死に身体を振り回し暴れます。
カルロはその姿にふと目を移します。
それでも、三つ目女はその視界をキスで隠してしまいました。


・・・やだ!いやだよ カルロ様。
なんで拒否しないの?
どうしてそんな女とも平気でそんなことをするの!?
それはあなたの心とは違うでしょう!!


・・・どうして・・・?


どれほどの時が過ぎたのかはわかりません。
いつしか三つ目女は満足したようで眠りに落ちていました。
天使ランゼは、ぼおっとしたまま俯いて涙を流し続けています。


ふと気が付くと。
カルロが目の前まで来ていました。
つり下げられているおかげで、背の低い天使ランゼの目線は
立っているカルロと同じ高さになっていました。

カルロの白いシャツはボタンが途中まで外され、
逞しい胸がはだけて見えております。
「ずっと・・・泣いていたのか」
天使ランゼはそう言われ一瞬目をカルロに向けましたが、
すぐに俯き再び涙を流します。

「これには術はかかっていないな。外れそうだ」
そう言ってカルロは天使ランゼの頭に両手を伸ばします。
・・・天使ランゼの口を塞いでいた布がはらりと落ちました。

「カルロ様・・・」
口が自由になった天使ランゼはやっとその名を呼ぶことが出来ました。
「その他は術が施されている。私では外すことが出来ない」
そう言って天使ランゼの身体を立て抱きに抱き上げます。
そうすると手首の紐がたわみ、力がかからず
縛られた手首の痛みがやわらぎました。

「・・・」
でも天使ランゼは黙って俯いています。
「・・・私を不甲斐ないと 思っているのだろう?」
「・・・」
答える代わりに、俯いたまま横を向きました。

「・・・100年前、私は冥王の元へ連れていかれた。」
カルロはぽつぽつ語りだしました。
「それからの私は、幽閉されて、取り出しては遊ばれる
 おもちゃのようだった。
 ・・・この、男の私が・・・だ。」
わずかにカルロの表情がゆがみます。
「人間界での常識など通用しない・・・
プライドなど、とっくに地に堕ちた」
「カルロ様・・・」
天使ランゼは背けていた瞳をカルロへ戻しました。
「信じていた自分の力が通用しないと悟ったときは、さすがに辛かったな。
 現に、この場の結界を、私の魔力では解く事が出来ないのだ。」

「じゃあ逃げることは・・・」
「まず不可能だ」

悪あがきをしても無駄。
抵抗にも涙にもこの世界では意味がない。
・・・それを、賢いあなたはよく知っているのね・・・。

天使ランゼはカルロの心に沈む悲しみの一部を垣間見ることができたような
気がしていました。

カルロは自嘲するような声色で話を続けます。
「・・・これでも私は人間界でマフィアのボスをしていたのだよ」
「・・・まふぃあ?」
「多くの男達を従えて、世界中を巡り欲しい物は何でも手に入れていた」
「なんでも?」
「そうだ。・・・人を殺すこともいとわなかった」
「・・・怖い・・・」
そう言って蘭世は眉をひそめます。
「ランゼ。私が怖いか?」
自分の手首の傷を気遣い抱き上げてくれているカルロと、
その彼の発言には違和感がありました。
「・・・わからない・・・。私は優しいカルロ様しか知らないもの」
そう答えると、カルロは目を細めます。
「・・・何故私はお前にこんな話をしたのだろう・・・そうだ、ランゼ。
確か初めてお前と夢の中で会ったときもそうだったな・・・」
(?カルロ様、何を言っているの・・・?)
天使ランゼは何のことかわからずきょとんとしております。
そう、夢の中 で会ったのは吸血鬼の蘭世の方なのですから。

「あんた達何やってるの!!」

大声に二人が振り向くと、三つ目女が怒りの形相で
仁王立ちになっておりました。

カルロは三つ目女に向かってニッと笑います。
「・・この天使の娘、かわいいだろう?私好みだ」
「!!」
そう言って天使ランゼに口づけるのです。
天使ランゼの顔はあっという間に真っ赤になりました。
当然三つ目女の顔も別の意味で真っ赤に燃え上がります。

「だまりなさい!!」

三つ目女がそう言った途端、カルロの身体はベッドの上に
テレポートさせられていました。
そして三つ目女もベッドに向かい、
今度はベッドの前のカーテンをシャッ と
引いて隠してしまいました。

「あなたは、今みたいに誰でも誘うの!?」
ベッドの上で三つ目女はカルロに詰め寄りました。
「愛人がいるそうね・・・どんな奴かしら!」
三つ目女はにじり寄り、カルロの首を押さえます。
「人間なの?それとも何処の種族なの?!」
「・・・」
「その女以外にも何人とやったの!?」
何を言われてもカルロは冷たい無表情のままです。
それと反比例して三つ目女はどんどん熱い怒りの表情になっていきます。
「これからは、もう2度と私以外の女には触れさせないからね!!」

そう言って、カーテンの向こうの影はまたひとつになっていくのです。

「カルロ様あっ!!」
また!
あの女許さないんだから!!!
天使ランゼはまた暴れ出します。
(そうだ!)
ぐぐぐぐ・・・と必死に懸垂をし、手首の紐にかじりつきます。
そう、紐を噛み切ろうとしているのです。

「うっ・・く、うっ!!」
天使ランゼは何度も懸垂をし、もう汗だくです。
「ふうふうふう・・・・もう、だめぇ・・・」
そして、その力にも限界が来ていました。
(あとちょっと なのに・・・!)
なかなか切れない紐。
悔し涙がにじみます。
そうやっている間にもカルロはあの女に汚されていきます。

カルロ様。
そうやって、そうやって
いつも誰かに何度も何度も抑えつけられてきたの。

(・・・女の方が魔力が上なの?)

だったら、だったら。
私だって女だもの。
私だってその強い力が欲しい。
そして、あの人の”心”を助けたい!!



『神様!どうか、私に力を・・・!』



ふいに天使ランゼの双眸が光り出します。
その目から、金色の閃光がほとばしり出たのです。

そう、それは”金色のいかづち”。

いつか天使リンゼが天使ランゼを助けるために使った物と
同じものでした。
魔力を封じる結界の中であろうと、天使のいかづちは
関係なくその力を発揮するようです。

「ぎゃあああああ!!」
金色のいかづちは三つ目女の首を見事に鋭く貫通しました。
カルロにのしかかっていた三つ目女はばったりと
倒れ伏しました。
その途端、洞窟全体にかかっていた結界に隙間が出来始めます。
カルロにはそれが一瞬でわかりました。
「カルロ様!逃げて!!」
「!」
カルロは魔力で封印の解けた天使ランゼの紐を一気にほどきます。

「こっちだ!!」
カルロと天使ランゼは二人でその部屋から逃げ出しました。

倒れ伏した三つ目女は。
死んだはず・・・?
いえ、むっくりと、身を起こしました。
「にが・・・さ ないわよ・・・」
息も絶え絶えにそうつぶやきます。
でも死にそうではありません。どうやら弱点は別にあるようなのです。
そうして額の目を隠していた飾りを外します。
額の中央にある3つめの”目”がぎらりと光りました。
「あの天使・・・殺してやる!」

そう言って、三つ目女はよろよろと洞窟の中へさまよい出ていきました。



つづく




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