『君の瞳に天国が見える〜ときめきアナザーストーリィ〜第4話』



(2)残酷な光


「さよなら。」
そう言って蘭世が開けたわずかなドアの隙間から、
わらわらと異形の者達が3人のいる部屋へとなだれ込んできました。
あっという間に部屋の中は魔物だらけのすし詰め状態になってしまったのです。

『ミツケタ 見ツケタ』
『カルロ殿ダァ!!!』

「な・・なに!?」
蘭世はなにがおこったのか判らず茫然としています。

「カルロ様逃げてっ!!!」
天使ランゼは必死に叫びました。
しかし、叫びも空しくカルロに魔物達が取り憑いていきます。
『俺が一番先にミツケタ!』
『いいや俺ダァ!!』
『この俺だ!!!!』

すでにカルロの四肢をつかみ合ってもみ合いの大喧嘩になっていました。 
『大きい天使モイルゾ!!』
天使ランゼの周りがカルロと同じ状態になるのもあっという間のことでした。

「かっ・・かるろさまぁっ!!」
・・・身動きできないよぉ。
天使ランゼはまた半泣きの状態になってしまいました。

「あっ、あなた達なに!?カルロ様を離して!!」
我に帰った蘭世は必死になってカルロを助けようと
魔物達を引き剥がしにかかります。
でも非力な蘭世の手ではなんともなりません。
「カルロ様にさわらないで!!!!」
怪獣のぬいぐるみのような小さい魔物の尻尾を捕まえて、
ハンマーのように振り回して取り憑いてる魔物を叩いたり、
引っ張ったりします。
それでも全くだめでした。
そしてカルロは・・・
三つ目女に捕まったときのように無表情で、
やはり糸の切れた操り人形のように動きません。

「オマエこそ何だ!?」「ナンだ?」
魔物の何匹かが蘭世に気づきました。
そして、その中でひときわ年寄りに見える、
しわくちゃ顔のカエルが叫びます。
「あ!こいつ俺知ってる!吸血鬼の蘭世だ。」
魔物達がざわめき出しました。
「なんだそれ」
「昔魔界の王子だった奴の恋人だよ!こいつのおかげで
 王子が禁断の剣で死んだんだ」
「やめてよ!」
思わず心の傷を思いだし蘭世は頭を抱え座り込みます。
それを見てカルロはハッとしました。
「彼女にさわるな!私を離せ!!」
カルロの身体からバチバチッ と光が放出し
魔物どもを蹴散らしました。
カルロはすかさず座り込む蘭世に駆け寄ろうとします。
しかし。
「ほいよっ」
魔物達の中に魔術師が混ざっていたようです。
「!!」
カルロの首に鉄の輪が一瞬で巻かれると、カルロの身体は
痺れて動けなくなってしまいました。
鉄の輪には特別な呪術が施されていたようです。
「驚いたねえ・・・今の魔法はカルロ殿にしては
上出来じゃないかい?」
そう言って鉄輪を巻いた魔術師が皮肉な笑い声をたてました。

あと10センチで蘭世に手が届く。
その手前でカルロは再び取り押さえられてしまったのです。
そして、蘭世のほうも魔物達に捕らえられてしまいました。
先ほどのカエルが続けます。
「俺はよう、昔からゾーン様にお仕えしているんだがさ。
眠ってたカルロ殿の想い人がこの娘と同一人物とはきづかなんだ」
カエル男はイヒヒヒ・・・と不気味に笑いながら
蘭世の顔をのぞき込みます。
「実はゾーン様にこの娘を捜して殺すように言われとるんだよぅ
 生きとると冥界のためにならないんだとさ・・・
 まったく1石2鳥だなよ」

「やめろ!」
カルロの声も空しく響くだけです。
「ぐうう・・」
魔術師によって首の鉄輪がしめられたようです。
何か言いかけたカルロの言葉は消えてしまいました。
カエル男の隣にいた怪獣が蘭世の腕を押さえています。
「どうやって殺す?」
「吸血鬼は朝日を浴びると魂も砕け散るんだってさ」
カエル男は魔界のことを良く知っているようでした。
・・・吸血鬼の弱点も。
「へええ。」
魔物達がざわめきます。
「そういやもうすぐ夜明けだ」
「魂がなくなったら黄泉の国へも行かれんさ。」
「カルロ殿も振ったんだしあの黄泉の国にいる
 王子の元へいくのは不公平だよな」
カエル男はそんな100年前の内情をも知っていたのでした。
「やめてやめて・・・!」
蘭世は顔面蒼白になり、泣きながらその恐ろしい相談を
聞いていました。
「ほい」
魔物の魔法のひとふりで、蘭世は気絶させられてしまいました。
そして、蘭世を捕らえていた魔物達は一瞬にして姿を消しました。
屋上へテレポートしたようです。
魔物ですし詰めだった部屋の、その蘭世がいた場所に
ぽっかりと空間があきました。

カルロの首を絞めた魔術師がにやにやしながら
天使ランゼに近づいてきます。
そして天使ランゼの顎を掴んで言うのです。
「おまえさんたちもあの娘が灰になるところを見るがいいさ
・・・自分たちの無力さを呪いながらね!」
天使ランゼはまっすぐに魔術師をにらみ返しました。
「そんなこと このあたしが 許さないから!!!」
天使ランゼは捕らえられたまま毒づきます。
「・・・フン。下等な天使ごときになにができる」

「おおい いくぞおー」
他の魔物達はカルロと天使ランゼを捕らえたまま、
狭い階段を満員の通勤客のように
押し合いへし合いしながら昇っていきます。
カルロは声も出すことが出来ないらしいのですが、
その表情は悔しさで歪んでいました。

天使ランゼは必死になって考えます。
どうしよう。
どうしたら!!
天使ランゼの視界に5段ほど上を行く魔術師の背中が見えました。

(誰を倒せば・・・あいつだわ!!)
天使のいかづちです。
その光はカルロを捕縛した魔術師の背を貫通します。
そして、魔術師は声も立てずに倒れました。
その途端、鉄輪が消えカルロは自由になります。

天使は無力な存在と侮られていたおかげで
こうしてカルロを助けることが出来たのです。

カルロは自分の周りと天使ランゼを抑えていた者を金縛りにすると
固まって動けない魔物を避けながら階段をかけ昇ります。
(はやく!! 早く!!・・・早くっ!!)
でも、元々満員の階段です。思うように階段を上れず
焦りが二人を包みます。

そして。
ようやく屋上のドアを開き外へ出たとき。
「蘭世!!」

天使ランゼとカルロの顔に清らかな朝の光がふりそそぎました。
それは。
今の二人にとっては絶望の光・・・。


「へええ。おもしれえな あっというまだ」
「本当に消えちまった」

蘭世を押さえつけていた怪獣の手には彼女がさっきまで着ていた
えんじ色のワンピースが残されているだけ。
そして、その足下には海岸の砂のように真白な灰が小さな山を
つくっているだけでした。

カルロと天使ランゼはその灰のそばで膝をつき、呆然としていました。

間に合わなかった・・・
(どう・・して・・・!!なんで・・・!!!)
天使ランゼの頬に涙が伝います。・・・そして、カルロにも。

あの優しい娘は もうこの世の何処にも存在しない・・・。
(・・・貴様ら!!)

カルロは突然、ゆらり・・と立ち上がりました。

「もう終わったのかよー」
階段からわらわらと金縛りの解けた魔物達が上がってきます。
そしてカルロの後ろ姿を認めました。
「カルロ殿を捕まえろ!ゾーン様に差し出すんだ」
カルロから青白い怒りのオーラがたち昇り始めています。
「貴様ら、許さん!!」

今までのカルロとは違いました。
もの凄い勢いで光を放ち次々とあたりの魔物を
焼き払っていくのです。

「うわああああ」
「ぎゃああ!」

魔物どもは恐れをなして逃げまどいます。

天使ランゼはその姿を呆然と見ていました。
倒された魔物は黒い灰になり、あとかたもなく
崩れ消え去っていきます。
次々と、次々と。

しかし、しばらくして天使ランゼはカルロの異変に気づきます。
(カルロ様?・・・なんかおかしい!)
カルロの実体の輪郭がぼやけだしたのです。
(もしかして・・・?!)
怒りのあまり通常以上に自分の力を使い、
その身も削っているようでした。
天使ランゼは愕然とします。
(いけない!このままではきっとカルロ様も消滅してしまうんだわ!!)
カルロは荒れ狂う光の中心にいます。
ひょっとしたら自分もその光に焼かれてしまうかも知れません。
でも。
(カルロ様!)
天使ランゼは意を決し、カルロに駆け寄りました
そして光を放ち続けるカルロの胴に抱きつきました。
「ダメ!カルロ様!!自分を見失わないで!あなたまで死ぬのは嫌!!」
(・・・!?)
その声に、カルロは我に帰りました。
ふうぅっと光が空中に溶けて無くなっていきます。
カルロはがっくりと膝を落とし、次の瞬間力つき倒れてしまいました。
(カルロ様!?)
天使ランゼは慌ててカルロの様子を見ます。
気を失っていますが、息はあるようです。
(・・・ほっ。)
天使ランゼはカルロが無事なことに安心しました。
しかし。
物陰に隠れていた魔物達がおずおず・・と出て来ました。
「カルロ殿、たおれたぞ」
「・・・もう大丈夫かな 連れていっても」
そう言いながら、ふたたびじりじり・・・と近づいてくるのです。
なんとしぶといことでしょう。

「・・・来るな!!」
そう叫んだのは。
天使ランゼでした。
天使ランゼは素早く力つきたカルロの両脇に手を入れ、
抱え込みました。
そしてじろり!と近寄ってくる魔物達をにらみつけます。
魔物達はその気迫に、おもわず後ずさりしてしまいました。

天使ランゼは昇ってくる太陽を真後ろにし、立ち上がりました。
「・・・う、まぶしくて見えん!!」
魔物達が日の光に目をしかめています。
その隙に。

天使ランゼは銀白の翼を大きく広げました。
ふわっ 
天使ランゼはカルロを抱えたまま、朝日に向かって
屋上から飛び立ったのです。

「あっ こらっ!」
「待て〜!!!」
「天使ごときに何を畏れているんだ!!行け!!」
天使ランゼの気迫に押され、一瞬魔物達はひるんでいましたが、
ふと我に帰り追いかけ始めます。
魔物達も翼のある者は飛び立ちました。
しかし、まばゆい朝日に溶けて、羽ばたく天使ランゼと
カルロの姿は容易に見つけられません。
そうして天使ランゼはカルロを抱え、朝日の中を遠くへ、
遠くへと飛び去っていくのでした・・・。








つづく



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