『君の瞳に天国が見える〜ときめきアナザーストーリィ〜』

後日話:・・・楽園にて

(1)


・・・悪魔になったダーク=カルロと彼に名付けられた天使”ランゼ”のお話です・・・。

悪魔ダーク=カルロは冥界人の支配する魔界へ、そして天使”ランゼ”は天国へと
・・そう、自分たちがそれぞれ元いた世界へと戻っていきました。
そして。
・・・あれから、さらに何百年か経ちました。



・・・ここは天上界。
選ばれた者のみが住む世界です。

明るい日差しがその世界にはあふれ、
香しい香りが野原一杯にひろがっております。
その花々が咲き乱れる美しい野原の真ん中に、ひとつの人影がありました。

その人影は、遠目に見てもすらっとした、そして優雅な雰囲気を醸し出しております。
・・・白いスーツを身に纏ったその男性は。
かの、ダーク=カルロでありました。



・・・彼と、その周りの人々はあれからどうしていたのでしょうか?

蘭世と俊は冥界人の手に落ちて、百年の時間差はありましたが
それぞれに黄泉の国へ行っておりました。
そして、蘭世と俊は共に、無事に転生を遂げておりました。
蘭世と俊はふたたび魔界の秩序を取り戻そうと手に手を取り合って
冥王ゾーンに挑みました。
そして、カルロはその二人を助け、魔界の内側から冥界人たちに揺さぶりをかけ、
見事冥界人の手から魔界を取り戻す事を成功させたのです。
ただ、その時にカルロは冥王と差し違えに自らの命を犠牲にしてしまいました。
 そして、その魂は許され天上界へと召されたのです。


(・・・)
カルロは草原の真ん中で、なんとなく天空を見上げ、ながめております。
・・・そして、今までに起きたことを何気なく思い起こしておりました。

思えば遠くへ、果てしなく遠くへとたどりついたものです。
初めて蘭世と夢の中で出逢った時から、すでに数百年の
(もう1000年に手が届きそうな)月日が流れています。
それでも魔法によって悪魔にされていた彼はあのときの姿のまま、
優雅な雰囲気もそのままにこの世界に存在しておりました。

穏やかな風が吹き、カルロの金色の前髪を優しく揺らしていきます。
(・・・)
すでに彼の想いは昇華されており、すがすがしい気持ちで毎日を送ります。
ここには先祖ジャンとランジェもおり、ときおり彼らを訪問したり
やはりここへ来た魔界の大王レドルフとチェスをしたりしています。
・・・やっと彼に訪れた平和な日々。

人間界でマフィアのボスだったことも。
冥界人に支配された魔界で囚われの身だったことも。
魔界を取り戻すべく命がけで戦ったことも。
もう全て昔のことです。
そして、再び魔界人として人間界へ転生したあの二人を
上からそっと見守る日々。

心にあった傷も忘れられなかった過去も。
やりきれない矛盾にさいなまれた日々も、
時間と共に全てはゆっくりと溶け、流れ去っていきました。

そうやって彼の想いは昇華されてはおりましたが、
やはり蘭世の事は何年経っても大事に大切に思っております。
彼女の幸せが自分の幸せ。
それでもほんの少しの寂しさが
心の隅に残っていることは確かだったのですが・・・。

(・・・)
カルロは、ふと視線を空から外し、ゆっくりと俯きました。
視線を落としたその足下にも、愛らしい花々が揺れています。
・・・人間界で幸せにしている蘭世を想うとき、同時に彼女にそっくりだった
一途な天使のことも想いだすのです。
この世界で空を見上げいると、ときおり彼女のような天使たちが
天空高く飛んでいくのを見ることができます。
(あの娘は今どうしているだろうか・・・)
今カルロの居る天上界は、人間界よりも、魔界や冥界よりもずっと
天使達の居る世界に近いはずなのです。
ただ、天上界と天使達の住む場所はどうも違うようで
空を横切る小さい姿を見る以外には彼らを見つけることは出来ませんでした。
下界を見渡すことは出来ても、自分たちよりも高い所にある
世界についてはカルロも、他の天上界の者も知ることは出来ませんでした。
カルロはここへ来た頃に、天上界にいる住人に天使達のことを聞いてみたのですが
誰も詳しいことは知っていなかったのです。

自分はすぐ近くまで来ているはずなのに。
(・・・あの天使に、逢うことは もうないのだろうか・・・)

・・・風の色が変わりました。
天上界にも夕闇が訪れようとしています。
茜色に染まりだした空を見上げ、そして瞳を伏せると
カルロはゆっくりと歩き始めました。





つづく


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