『君の瞳に天国が見える〜ときめきアナザーストーリィ〜』

後日話:・・・楽園にて

(2)


・・・ここは天国です。

天使のランゼとリンゼの住む神殿には、
あれからまた沢山の天使が住むようになっておりました。
彼らは生命の神がまた創って下さった者達でした。

相変わらず天使達には名前がありませんでしたが、
それでも余り困ることはありません。
ただ、天使ランゼは初恋の人につけてもらった名前を大事にしており、
天使リンゼの方は不本意な状況で付けられた名前ではありましたが、
「ランゼ」との語呂が気に入り「リンゼ」という名を使っておりました。
そして、彼らは生まれたときと同じような純粋な心で
その神殿で毎日を暮らしておりました。

ただ、天使ランゼとリンゼは、生命の神にあるお願いをしていました。
天使リンゼは、”大切な人たちを守れるように大きな体を”と願い、
その姿は天使ランゼと同じ16歳位の美青年になりました。
そして、天使ランゼは・・・
”堕天使に相応しい・・・黒い髪と黒い瞳を下さい”
そう言った天使ランゼの本当の心を、生命の神様はお見通しでした。
”・・・カルロ様が愛したあの人と同じ姿を下さい・・・”
生命の神は、それでも何も言わず天使ランゼの願いを聞き届けました。

天使ランゼは天国に帰ってから色々と生命の神様のお手伝いをするようになりました。
天上界を管理する者達に伝言を伝えたり、
人間界から天上界へ昇る者を迎えに行く手伝いをしたりするのです。
人間界や魔界で不思議な体験をした天使ランゼには最初の頃のように、
神殿にじっとしているのはもう耐えられないことでした。
だから、自分から生命の神にお願いして仕事をもらうようになったのです。

(・・・)
ときおり羽を休めて立ち止まると、あの遠くへ飛び去ってしまった
彼の人の姿を思いだします。
それは今なお苦しいほど胸が締め付けられる想いがするのですが、
それでも何も知らない頃に比べてずっとずっと幸福でした。
(そう。私の天国はこの私の瞳の中にあるだけ・・・。)


天使ランゼはカルロが天上界に来ていることを知りませんでした。
生命の神もわざとそれを彼女には教えないでいたのでしょうか?
カルロが天上界へ行くときも迎えに行かせたのは天使ランゼではなく
先祖のジャンとランジェ達でした。


その日も天使達は祭壇に向かって朝のお祈りをしておりました。
天使ランゼもその中に混じっております。
そして天使リンゼに教えられたように、生命の神との会話も
心の中の声で交わされるのでした。
数百年たった今も、やはり神様のお姿を拝見することはいちどもありませんでした。

『いつもよくがんばってくれている。感謝しているぞ』
(ありがとうございます・・・私このお仕事好きなんです)
『今日は天上界へ使いに行ってくれるかな』
(はい!)
生命の神にとって、この天使は一番のお気に入りのようでした。

しばらく間をおいて、生命の神の方から天使ランゼに呼びかける声がしました。
『・・・その使いが終わったら、おまえはしばらく休むとよい』
この声に天使ランゼはびっくりしました。
(え?・・神様、私お休みなんていりません)
『私からの褒美だと思いなさい。 お前の仕事は他の天使にさせておくから』
(・・・・)
天使ランゼは納得がいきませんでしたが、とりあえず わかりました
と言いました。


(私、なんかドジったのかなぁ・・・)
お休みをもらうなんて今まで言われたことがありませんでした。
今まで仕事が無い日ももちろん沢山ありましたが、
仕事を代わってもらって休むということはしたことがありません。
私になにか悪いところがあったかしらとあれこれ考えながら
天上界の空高い所を、少しブルーな気分で飛んでおりました。
これから、生命の神から預かった巻物を天上界の管理をしている者の所へ
届けるところでした。

今日行くところは自分でも初めて行く場所でした。
いつも届け物をしている者とは違う者宛の巻物です。
(こっちで合ってるわよね・・・・?)
きょろきょろしながら飛んでいきます。
自分がなにか気づかずにドジをしているのではと思っているので、
また今日さらに失敗するわけにはいかない!!と、ことさらに強く思います。
・・・でもそういうときに限って、人?は失敗するものです。
天使ランゼは人ではありませんでしたが人並み以上にドジっぽいのは事実でした。
「きゃっ!!!いけない!!!」
手から届ける巻物がするりと落ちてしまったのです。
ランゼはあわてて巻物を追いかけ急降下します。

(あとちょっと、あとちょっと・・・いけない!!!!)
地面が近づきつつあることに気づくのがワンテンポ遅れました。
それでも踏ん張って羽ばたき直します。
地面にたたきつけられるのだけはごめんです。
巻物どころではありませんでした。

(もうダメ・・!!)

天使ランゼは思わず目をつぶります。


つづく


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