『君の瞳に天国が見える〜ときめきアナザーストーリィ〜』

後日話:・・・楽園にて

(4)


天上界でのカルロの住まいはこぢんまりとした洋館でした。
それでも部屋数は結構あり、カルロはその一つを天使ランゼに開けました。
しかし・・やはり、天使ランゼは・・
久しぶりに会えたこの男から離れ難く、そしてカルロも彼女にそばにいてほしいと願っています。


そこは・・・カルロの私室でした。

二人は寄り添って窓辺からなんとなく外を眺めていました。
天使ランゼは、落としてしまった巻物のことはもちろん気になっています。
でも、今夜は、この人のために、そして私自身のために ここにいよう・・・。
そう心を決めていました。
ふいに 天使ランゼは カルロに寄り添いながらも、かつて
”身代わりでもいい そばにいさせてください”と、そう言った彼女に 彼は
”私もあの娘にそう懇願すれば 蘭世・・彼女は私の元に残ってくれただろうか”
そう返事したことを思い出し・・少し眉が曇ります。
(でも・・・そう言われても 私の気持ちは 変わらなかった・・・。)
じっと、あなたの飛び去る姿を目に焼き付けたあのときから、今までも・・。
 天使が恋に落ちたのは、悪魔カルロの妖しい魔力が成せる技のせいだったかも知れません。
でも、天使ランゼのこの想いは、ずっと彼女の心の中でランプの灯火のように
ほのかに灯り続けてきたのでした。

そうして、天空高く昇りつつある三日月を眺めながら、
いつしかまた 天使ランゼは自分の想いをうち明けるのです。
「わたし・・・あなたを忘れたことありませんでした。」
そう言いながら天使ランゼは目を閉じてみせます。
「こうして目を閉じるたびに あなたの姿を思い出していました」
「ありがとう・・・」
カルロは天使ランゼの額の前髪にそっと口づけました。
翼を奪った今の天使ランゼは・・黒い長髪と瞳も相まって、もう かつて自分が愛した
あの娘・・・”蘭世”そのままの姿です。
・・・でも、カルロの心の底で 姿のことなど関わりなく、ただひたすら
この純粋な天使の心に応えたい・・という想いが いつしか わき始めていたようでした。
「天上界に来てからは いつもお前のことが気がかりだった。ここは天国に近いはずだから
・・・きっと、いつか逢えると思っていた」
「えっ カルロ様・・!」
天使ランゼは思いがけない言葉に、耳を疑いました。
「本当に・・・!?」
「人間界にいたときは、もうどうしようもない立場で ああするしかなかった。
 私の、昔の想いも吹っ切れていなかったし・・。
 だが今は・・私の今の想いを阻む物は もう、なにもない」
(それは・・・!)
天使ランゼは自分の胸が早鐘を打っているのに気づきます。
見上げると・・・そこには、自分を熱いまなざしで見つめる碧翠の瞳がありました。
「ランゼ・・・おまえを、天使のお前を 愛している」
(ああ!・・)
思いがけず伝えられた その 言葉。
天使ランゼは感極まって涙し、彼に抱きついてしまいました。
「私も、貴方を愛しています・・・カルロ様!」

”もう、離れたくない・・・”

カルロと天使ランゼは住む世界が違います。そしてまだ”問題”は残っています。
それでも。
その時の二人の気持ちは・・・ひとつ、でした。

やがてカルロは天使ランゼを抱え、寝室に向かいます。
大きな、白い、天蓋付きベッド。
翼のない背中が直接ベッドのシーツに触れ天使ランゼは頼りない不安な気持ちになります。
「・・・」
それを察したのか、カルロは天使ランゼの背に腕をまわして枕のようにし体をそっと浮かせました
(カルロ様・・・)
ああ、この優しさも、変わらないのね・・・。
カルロの背に細い腕を廻し彼の存在を確かめるように抱きつき・・背中をそっとなでていきます。 
(とても 広い背中・・・)
奇跡のような再会をかみしめ、金色の髪に頬を寄せます。
そして溢れ出す気持ちを抑えきれずまた見つめ合い、唇を何度も重ね・・・唇を離すと、
雫が光る細い糸となってお互いの唇をつなぎました。

昔とは違うんだ。カルロ様の想いは まぎれもなく私へ向けられているんだ。
そう思うだけで、そしてそれを彼から感じ取ることができるだけで天使ランゼは幸せで
もうなにもいりません。
カルロも それはもう気が遠くなるほどの間抱えていた孤独が埋められていくような
感覚に自ら驚き、そして一層この娘が愛おしく離し難く思えていました。
(恋とは・・・不思議な ものだ・・・)
天使の白い素肌に 長い間自分が押し殺してきた心の傷に気づき 
そして癒されていくのです・・・。

お互いのぬくもりを感じ取って、愛を何度も確かめ合って・・・。

天上界にかかる三日月は、ゆっくり ゆっくりと西へ傾いていきました。


同じ頃。

天使ランゼが落ちてきたその場所から少し離れたところに・・・

三日月の薄い光でもなお銀白に光る、ひときわ大きな翼が 天空から舞い降りてきました。
その背の高い人影は、降り立ったところに落ちていた 何かを拾い上げます。
そして・・・。


つづく


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