『君の瞳に天国が見える〜ときめきアナザーストーリィ〜』

後日話:・・・楽園にて

(5)


天上界に夜明けがやってきます。
天使ランゼは日が昇ると昨夜の余韻を楽しむいとまもなく外へ飛び出していきました。
・・そう 昨日落とした巻物を探しに行くのです。
カルロは少し苦笑しながら、それでも落ち着いた足取りで天使ランゼの後を付いていきます。

「・・どうしよう!無い、無いわ!!」
二人は昨日天使ランゼが落ちてきた野原で巻物を探します。
低く生い茂った草むらもかきわけ、花々の足下も探します。
しかし・・・二人がいくら探しても見つからないのです。
そして天使ランゼはカルロに預けられていた翼を返してもらい、空からも捜索しますが・・・
小高いところから見渡しても、かなりの距離を飛び回っても見つからないのです。

やがて、天上界の住人達が、二人のただならぬ様子を見て寄ってきます。
「一体どうしたのかね?」
・・
最初に話しかけてきたのはジャンとランジェでした。
天使ランゼは自分にそっくりな金髪の女性が現れ驚きましたがそれどころではありません。
カルロは二人に天使ランゼを紹介し・・事情を話します。
ジャンは静かにそれを聞いていましたが少し考え・・あることを思い出しました。
「・・・それなら、夜の番人の所へ行くといいのでは?彼ならば夜の出来事を何でも知っている」

カルロと天使ランゼは天上界の東にある鬱蒼とした森へ向かいます。
昼なお暗く、大木がいくつもそびえ立ち緑色の気を放つ森の中を二人は進みます。
やがて・・・ジャンが示した場所に、ひときわ大きく太い木が立っており・・
何故かその幹にドアがついているのです。
天使ランゼはおそるおそるその大木の扉へ近づき、ノックしました。
「ふわあ・・わしの眠りを妨げるのは誰じゃ」
扉の奥からくぐもった、のんびりした声が聞こえてきました。
「あのあのっ、お休み中ごめんなさい。実は是非お聞きしたいことがあって・・
ここまでやってきました。会っていただけないでしょうか・・」
しばらくの沈黙の後、木をこすり合わせた、にぶく甲高い音と共に
大木のドアがゆっくりと開きました。
そして、中からは・・・白いひげを生やした小柄な老人が大きな杖をついて出てきました。
ひとなつこそうな、笑顔の穏やかな老人です。
・・ただ、彼は昼眠り夜目覚める生活のせいか非常に眠たげでした。
「ふわあ・・・おや、カルロじゃないか。ん?そこのお嬢さんはみかけんかおだの。」
「はじめまして。あの・・・私、天使で・・ランゼともうします・・」
「なんと、めずらしや。・・・そういえば昨夜も天使がもうひとり
 この世界に舞い降りてきたがの」
「ええっ!?」
天使ランゼは目をまん丸にして身を乗り出します。
こちらが聞く前に何か鍵となるような言葉をもらったような、胸騒ぎが起きます・・・
「どんな天使でしたか!?」
「うーむ 金髪で若い青年のようだったがの。」
(もしかして!?リンゼ!?)
「青年?」
カルロが訝しげに聞くと、天使ランゼは説明しました。
「それ、リンゼかも・・・!あの子、今私ぐらいの大きさになっているのよ」
「天使も成長するのか?」
「いいえ・・・リンゼはね、生命の神様に身体を大きくして下さいとお願いしたのよ」
天使ランゼは思いだしたようにまたその老人に聞きます。
「その天使は何か拾っていませんでしたか!?」
「さあ・・はて、そこまではわしもわからんが・・・」
でも。
何か胸騒ぎがします。
二人は老人に礼を言うとその森を後にしました。

二人は再び野原へと戻ってきました。
思い詰めたようにずっと黙り通していた天使ランゼでしたが、
決心が固まったようです。
つと立ち止まり、カルロへと振り向きます。
「カルロ様、私いちど天国に戻って巻物についてリンゼに聞いてみようと思うの。」
「ランゼ・・・」
「それでだめだったら・・生命の神様に相談するわ・・・」
カルロもそれが最適の方法だと思いました。
ですが・・彼はもはや天使ランゼを一瞬でも手放したくはありません。
ましてや、遠い遠い、自分が行き着くことの出来ぬ天国になど・・・。
叶うことならば一緒に付いていきたい。
ですが・・・それが無理なことも判っていました。
自然に彼の眉が曇ります。
その前髪の奥に見え隠れする寂しげな翠の瞳を見ると・・・
天使ランゼもいたたまれなくなってきます。
天使ランゼは背伸びをし、カルロの肩に腕を廻して抱きつきました。
何か、カルロにざわつく胸騒ぎが起き・・・
天使ランゼを離し難く抱きしめる腕に力がこもります。
「・・約束してほしい。必ずここへ戻ってくると」
「・・はい!お約束します・・・!」
天使ランゼは、自分が今この上なく幸せ者だと・・・感じていました。
あんなに恋いこがれていた男・・カルロが、自分のことを想って待っていてくれるのです。
「何があっても・・・必ず・・帰ってきます」
「ランゼ・・・」
離れ難く深く口づけを交わしますが・・・
そこから先に唇を離したのは天使ランゼの方でした。
天使ランゼはそれを・・自分の想いをも振り切るように
翼を大きく一振りし、飛び立ちます。
カルロはいつまでもいつまでも空を見上げ、その銀白の翼の姿が見えなくなるまで
見送っていたのでした。


つづく


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