『微笑みの在処-ルーマニアレポート・3-』:悠里 作:カルロ様聖誕祭2004


6)

イザークが部屋から出ていった少し後。

「おい、立ち上がれ」
伯爵を別室へ連れていこうとしているらしく、伯爵の身体を椅子に縛り付けていた
縄が一瞬緩められる。
その時だった。
外で突然爆音がし・・地響きと共に部屋全体が打ち震える。
「なんだ!?」
「警察か?!畜生」
周りにいた男達が騒然となる。
「どこだ?」「西門だ・・いや、北も南もだ!!なんてことだ」
みるみるうちに男達は浮き足立っていくのがわかる。
「見張っていろ!」
そう言って 見張り1名を残し男達はわらわらと外へ飛び出していった。
(ふーん)

伯爵の縄は緩んだままだった。
(慌てているよなぁ・・・)
伯爵はチャンスを見逃さない。
あっという間に全て縄を取り払い見張りを背中から殴り倒した。
伯爵は倒れた男のポケットを探った。 ドアの鍵を探したのだ。
「無い・・・困ったな」
ままよ。
伯爵は勢い良く鋼鉄製の扉に体当たりをした。
「あれっ???!」
すかっ と あっけなく 扉が開いたのだ。勢い付いて伯爵は廊下へ転げだしてしまう。
「あいたた・・とことん 慌て者の皆様だね・・・都合良くて良いけど」
伯爵は立ち上がりながら身体の埃を払う。
そのとき・・・
伯爵の目の前で 隣の部屋のドアがガチャリ・・とゆっくり開いた。
「あれっ!?」





その少し前のこと。
遠くで、どおん・・という爆発音が聞こえ・・・
自分の居る床から身体に振動が伝わってくる。
”カミーユ”が目を覚ますと・・そこは冷たく暗い部屋であった。

(夜なのかな・・)
後ろ手に手を縛られており、身動きが取りにくい。 
それでも、えいやっ・・と勢いづけて起き上がった。
暗闇に目を凝らすと・・・隣りには部下Zの姿。
まだ倒れているようだった。
(他の誰もいない・・・私たち二人きりなのかしら)

ここに来る直前のことを思い出す。
(突然視界が真っ白になって、次の瞬間 何かで口を塞がれて・・・)
気が遠くなって、気が付くとこの部屋だったのだ。
(あっ そうだ・・)
”カミーユ”は思い出して左手首を右手でぎこちなくまさぐる。
当然のように・・手にはめていたブレスレットは跡形もなく無くなっている。
(ああ・・また誰かに持って行かれてしまったのね・・・)
がっくりと ”彼”は肩を落とした。

(ぶるっ 寒い・・・いけない!)

”カミーユ”は寒さでくしゃみが出そうになっていた。
(だっ だめよ 今ココで戻ったりしたら・・・!!)
口元を押さえたくても手は縛られて動かない。

「は・・・はっくしょーん!!」

(ひゃー)
カミーユのいたところに、制服姿の女の子が現れる。
あっけなく・・”カミーユ”は元の”ランゼ”に戻ってしまったのだった。
(変身見られたかしら!?)
慌ててランゼは部下Zの顔を覗き込む。
幸い部下Zは意識が戻ってはいず、縛られたまま横倒しになっていた。
(ほっ・・・)

そして、カミーユより一回り体の小さいランゼは、縛られていた紐が緩んではらりとそれが身体から
落ちた。
(ら・・・ラッキーかも!?)
手首も同様に緩み外れ・・すかさずランゼは部下Zを揺り起こしにかかる。
「Zさん、Zさん!しっかりして・・・」

「・・・」

部下Zが、ゆるゆると目を覚ます。

「ここは・・・」
「Zさん!」
呼びかけられ、部下Zは跳ね起きようとし・・後ろ手に縛られているせいで
よろめきまた床に転がってしまった。
彼女の姿に・・部下Zは驚き目を白黒させている。
「君は・・・ランゼ君じゃないか!君まで捕らえられてしまったのか」
「ええ・・まあ・・そんなとこかな」
まさかカミーユの姿で今日はご一緒してましたとは言えない。
別ルートで誘拐されてきたとでも思って置いて貰おう・・・
そう思いながら ランゼはごまかし笑いをした。

「とにかく・・縄を切らなきゃ」
ランゼが部下Zの背後に回り、彼の両手を縛っている紐を緩めようと奮闘を始める。
「・・・固いわ・・・」
「君は縛られなかったんだね」「いいえ・・その、縛った人が下手だったみたい」
「僕も下手な人に縛って貰ったら良かったのになぁ」
そんな冗談を言う余裕が まだ彼にはあった。
「奴らはなんで僕なんか誘拐したんだろう?君は狙われてたから何か理由がありそうだけど」
「うーん・・」
多分、”カミーユ”だったランゼはブレスレットをしていたから連れ去られたのだと
ランゼはなんとなく感づいていた。
(私のそばにいたから 一緒に連れ去られたのかしら?それとも他に理由が・・)
伯爵も一緒に連れ去られてきていることは、今の二人は知る由もない。

なんとかランゼは部下Zにかけられていた手首と身体の縄を解くことに成功した。
そうやっている間にも 外で轟音が響いている。
「一体なんだろう・・・?」
そうは思ってみたが、状況があまりうまく把握できない。
「とりあえず・・・脱出だ!」

(まさかとは思うが・・)
とりあえず部下Zは入り口のドアに手をかけた。
「不用心だな・・開くよ」
縛って置いて安心したんだろうか?鍵をかけないなんて。
そおっと、部下Zは扉を開け外を見回した。

「あれっ!?」

廊下にいる人影は・・・

「Zくん!」「伯爵!!」

見知った者に出会い、部下Zは少しほっとする。
「そっちの扉も開いていたんだね ということは」
伯爵は片っ端から扉を開け始める。
「ここも ここも開いてるよ」
屋敷中の 鍵という鍵が 全て開錠されているらしい・・。
(味方がもう到着しているのか?!)
電子ロックの制御系を操作すれば アジト中の扉を一気に開錠するのも難しくはない。
「これならば・・!」
ふいに伯爵は思いついた。

窃盗団のアジトなら、お宝の倉庫だってあるはずだ。
そして今ならきっと そこの扉も開いている!?

「あの・・・」
扉の向こうから、ひょっこりランゼが廊下へ顔を出した。
「あれっ カミーユ君は?」
伯爵の質問に、ランゼは心臓が飛び出しそうなくらいびっくりする。
(なんでそれを・・・!?)
伯爵は 先程モニターで倒れた二人の画像を見たところだったのだ。
「確かカミーユ君とZ君が倒れていたように思ったけど」
「え?私は知りません・・見間違いじゃありませんか?」
「うーん・・」
伯爵は念のため部下Z達がいた部屋を探し回る。
(いない・・偽の映像だったんだろうか・・・?)
「伯爵・・お願いがあります。」
ふいに、ランゼが伯爵の側へ進み出た。
「あなたは有名な泥棒サンですよね」
その言葉に伯爵は 少しの驚きと喜びとで彼女に向き直る。
「なんだいお嬢さん」
「私、今からこの屋敷にある筈の、私のブレスレットを探したいんです。
一緒に手伝っていただけないでしょうか」
ランゼは真摯な瞳で伯爵を見据える。
「勿論、報酬はお支払いいたします。」
「ブレスレットって、例の”癒しの石”のかい?」
そう尋ねられ、ランゼは黙ってこくんと頷いた。
「ふーん・・」
伯爵はじっ・・と考えながら腕組みをしその瞳を受け止めている。
「いいよ 手伝おう。・・・別に報酬なんか要らない」
「えっ」
ランゼは驚く。
「君のところのカミーユ君に 私は借りが有るんだ。それを返すよ」
「伯爵・・・」
部下Zもそれを聞いて 多少なりと驚いてしまった。
(伯爵が女性の頼みを素直に聞いた・・・!)
「お嬢さん、きっと私はあの石をこの屋敷から探し出して君の家へ送り届ける。
だから君はここから何としても逃げ出すんだ Z君が一緒なら大丈夫だ」
「私も探すの手伝います!」
「大丈夫、私だけで十分だよ。それよりも君たちの安全の方が優先だ・・それと」
伯爵はいたずらっぽい笑顔でウインクをする。
「ここは宝石窃盗団のアジトだよ。ここの倉庫にはお宝がざっくざくさ」
伯爵は笑顔から・・次第に仕事人のきりりとした表情へ変わっていく。
「私にはプライドがある。これだけコケにされてこのまま引き下がるなんて出来ない。
 一矢報いないと気が済まないんだ」
「ありがとう・・伯爵!」
”どうぞご無事で””グッドラック!”
そう挨拶を交わし 伯爵と 部下Zとランゼは二手に分かれ その場を離れた。


つづく


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逃げろや逃げろ 部下Z(ツェット)くんとランゼちゃん〜そしてボスは・・。

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