ご注意:
カルロ×蘭世 のお話です。
さらには拙宅の『パラレルトゥナイト』の番外編で書いていますので
そのあたりを了承されたうえで お読み下さい。




『冬のまどろみ 春への惑い』

(中編)



どうしよう どうしよう。
私に子供が出来ないと みんなが困るんだ。

まだ子供が出来ていない、と言うこともせつない
でも。

(まだ 子供なんて)
それよりも とても心に重くのしかかっているのは
何より 自分自身にまだその心構えが出来ていないこと
それに気づいてしまったのが 辛い・・

(そりゃあ、いつかは子供は欲しいなと思ってたけど)
冬枯れて 雪に埋まる公園の横をとぼとぼと歩く
変身は さっきうっかりくしゃみして解けてしまっていた

(カルロ家に嫁ぐとはこういうことなのね…)
カルロと結婚すると言うことは 愛し愛されて カルロのために尽くして
それだけではないのだ

”跡継ぎ問題・・・”
わたしだって もうすぐ二十歳になる 名実共に大人の仲間入り
でも こんなに駆け足で難しい問題を抱えなくちゃならないなんて


「でも あんまりよぅ」
私がまだ身体が未発達だから 赤ちゃんができないだなんて!
暴言にも程がある。
(ううん まって)
でも 本当にそうだったらどうしよう・・!
素直すぎる彼女は つい 鵜呑みにしてしまう
だって私は”あいのこ”の魔界人 なにがあってもおかしくないわ
ますます落ち込んで 心は空の色とおなじ鈍い灰色
涙がぽろり ぽろりとこぼれ落ちて

そうして ため息を付きながら歩いているところを 車で通りかかった
マダム・グレースに呼び止められたのだった


「え?私に、子供?」
「はい・・・」
「いるわ。私の子供はこの子達よ」
そう言って彼女はポメラニアンたちを両腕に抱きしめる
「・・・」
微妙な問題に行き当たり、蘭世は戸惑う
子供がいない理由は色々だが 欲しくて授からない場合もあるのだ
今の、自分みたいに。
蘭世はどぎまぎしながら 言葉を探す
「あの・・・失礼かも知れないんですが・・」
「?」
「おうちの跡継ぎとか 周りから言われたこと無いですか」
「跡継ぎ?」
「ええと・・あの、跡継ぎになるお子さんはまだですか とか・・・」
その質問に ああなるほど、という顔と 笑顔とが同時に女主人の顔に浮かぶ
「そうね、言う人もいるわね。
 跡継ぎ・・というのはうちはあんまり関係ないけど ベビーは?って」
女主人は犬のシータをなでながら答える。
「・・・そんなとき、辛くないですか?」
「そうねえ・・・」
女主人はゆっくりと首を軽く傾げる。
「私は、自分の道と他人の道は違う物、って割り切っているけど・・
 ランゼさん、 そのことで悩んでいらっしゃるの?」
蘭世は一呼吸ためらったが 首をこくん、と縦に振った。
「まあ まだそんなにお若いのに?。誰がそんなこと言うのかしら」
女主人は驚いた顔。
「ランゼさん、まだ結婚したばかりでしょ」
「ええと・・もう3年目なんです」
「いやあねえ3年目なんて まだはじまったばかりよ」
女主人はくすくす笑いながら立ち上がった
「ねえ、今日は我が家でゆっくりしてらして。夕食もご一緒したいわ」
そう言いながら、女主人は手招きをする。
「夕食の前に、私のアトリエに遊びにいらして?ね」


誘われるがままに女主人の後について 屋敷の長い廊下を歩く
当然、犬達も付いてくる。
そして 階段を上がったところにある白いドアが開かれると

「わ・・あ」

古い洋館にしては窓が沢山あり丸い天窓も。
その部屋の窓辺には長い棚がしつらえてあり 形の揃えられた瓶がずらり。
その瓶には色とりどりの 石が入れられていて 外の光にキラキラと光っている。
部屋の壁にはその石を連ねて作ったと思われる何かが沢山かけられていて
何かしら・・と 思わず蘭世が近寄ってみると、それはロングネックレスの数々であった。
ひとつとして同じデザインはなく、色とりどりで 形も様々。

「素敵・・!」
「ありがとう。」

透明な引き出しがいくつにも重なった棚もあり、そちらにも様々な形・色の石や・・ビーズ。
天窓から吊り下げられている小さなシャンデリアも、どうやらそれらで作った物らしい。

「これ、みんなマダムが作られたんですか?」
「そうよ。」

彼女はアクセサリーデザイナー。
「私がデザインして作ったアクセサリーをね、主人の会社で売っているのよ」
「すごい・・!」

女主人は中央にあるトルソーへ歩み寄ると、それの肩に架けられたネックレスを優雅な仕草で手に取る。
「お互いに忙しすぎて主人とは年に数回しか会わないんだけど、
 それでも心は通っていると信じているの」
「・・・」
「ふたりの子供を・・とも思うこともあるけど、今はこんなふうに それよりももっと
 夢中になることがあって 私にはこれが全てなのよ」

そう言いながら、女主人は引き出しをひとつ、ふたつ開けて 中から色とりどりの石を取り出す
透明な輝きを持つそれは 蘭世が近寄ってみてみると なんともかわいくてうっとり。

「この石はね、愛のお守り。旦那様と仲良くね。それと、これは・・中傷から身を守ってくれるそうよ」

他にも2つ、3つ取り出して それぞれについて蘊蓄を述べるのを、蘭世はうん、うんと真剣に聞き入っている。

「ちょっと待ってらしてね」

そう言いながら、女主人が白いテーブルにつくと そこには様々な糸や工具。
器用にそれらを使って・・銀色の細い糸で繋ぎ合わせ・・・
しばらくその手つきに見入っているうちに それらはひとつのネックレスになった

「わあ かわいい!」
「さあ、どうぞ」

そういって女主人は笑顔で蘭世の首の後ろへ手を差し伸べて できあがったそれを身につけさせる
それは鎖骨に添うようなサイズの愛らしいネックレス。
そばにある鏡に映せば
「きゃあ・・・かわいいー!」
「よかった。よく似合うわ・・これは、私からのプレゼントよ」
「えっ いいんですか?!」
こんなの欲しいと思っていたところにそんな台詞で 蘭世はぽっと顔を赤らめ
それに女主人はウインクで応える。
「勿論!お友達になった記念ね」
「わぁ・・ありがとうございます!」

沈んでいた心がちょっとうきうきとなって そのまま支度の出来た晩餐もごちそうになり、
あれやこれやと楽しく会話が弾んで 夜が更けていく


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