『もうひとつの・・・』


13)


月の光が 指輪へ 吸い込まれていく・・・!

まばゆい光で周囲のものは全て真っ白に輝いていた。
望里達はあまりのまばゆさに目を開けていられず目を閉じ顔を背けていた。
指輪を出した蘭世も それを手のひらにのせたまま硬直し目をぎゅっとつぶっていた。

(・・・)

次に蘭世がおそるおそる目を開いたとき そこにあったのは・・・夜の闇だった。

「蘭世!」「おねえちゃん!!」

「・・・なにが おこったのかしら・・・」

望里達が蘭世の手のひらを覗き込むと、指輪がまだわずかに鈍い光を放っていた。
それが彼らの目の前で すうっと消えていく。

蘭世は目をつぶる直前に空からも光がきていたことを思い出し 空を見上げた。
「あれ・・・?まっくらでなにもないわ・・」
「おねえちゃん、指輪がね、魔界の月の光を吸い取っちゃったみたいだよ」
「ええっ!!」
(こわい!)
蘭世はそんな大それた事をしでかした指輪が恐ろしくなり、誰かに預けたくなっていた。
だが、はっ、と我に帰り思い直す。
(だっ、だめよ蘭世。これはカルロ様のだもの。きっとカルロ様を助けるためにある指輪なんだわ!)
”カルロ様は悪い人じゃない。”
蘭世には何故かそれが確固たる事実に思えていた。私は間違っていない・・・!
手のひらの中の指輪をもういちど見つめ、蘭世は思いを込めてきゅっと握りしめた。
(カルロ様、私が助けてあげる!)


「そこにいるのは何者だ!」

魔界から、大王と兵士達が出てきていた。そして望里達に近づいてくる。
(・・・やれやれ、先程の・・カルロが捕まったときと同じような光景だな)
望里が心の中でため息をついた。

「またお前達か・・ここで何をしている?お前達のお陰で月が消えてしまったぞ」
「大王様」

望里が片膝をついて恭しく礼をした。
「実は 娘が持ってきた指輪が 月の光を吸い込んでしまいまして・・・」
「なんだと?」
大王が つかつかと蘭世達に近づいてくる。
「なんだその指輪とやらは・・それを見せるんだ」
だが、蘭世は思わず反射的に後ろへ下がっていた。それが蘭世の意志なのか指輪がさせたことなのかは
はっきりはしない。
「蘭世、それは魔界にとって大事な指輪だよ 大王様にお渡ししなさい」
「イヤ!これはカルロ様に渡すの!」
そう蘭世が叫んだ途端、蘭世の周りをざざっ と兵士達が取り囲んだ。
彼らは蘭世に向かって槍を突きだしている。
「大王様・・」
望里は抗議しようとするが、大王のひとにらみでたじろいでしまう。
蘭世もその恐ろしさに身をちぢこませている。
「う・・・」
「娘から指輪を取り上げろ」
「ハッ」
取り囲んだ兵士数人が蘭世へ手を伸ばす。
「・・・絶対に、イヤ!カルロ様!!!」

蘭世が思わずそう叫んだとき・・再び指輪が光り出した。
「うわっ」
再びのまばゆい光に兵士達がひるんだとき・・

「・・・なんだ?」「娘はどこへ行った?」

一同はうろたえた。
蘭世の姿が 忽然と無くなってしまったのだった。
うろたえたのは兵士だけでなく大王も例外ではなかった。
(魔力でも逃げられぬようにと 一帯の力を封じたのに 何故だ・・?)





(助けて!カルロ様!!)


そう念じ 再び はっと我に返ると・・・
蘭世は自分の周りの風景が がらっと変わってしまったことに気づいた。

外にいたはずなのに、蘭世は今屋内にいるのだ。
しかも、そこは奇妙な背の高い円筒形の物体が 何個も並んでいる場所だった。

(ここは・・いったい なんなのかしら・・・??)

蘭世は場面展開についていけず、あたりをきょろきょろと見回した。
部屋の中には 人の姿は見あたらない。
「あのぅ・・・」
蘭世は心細くなって円筒形達に向かって声をかけてみた。
「あのう・・だれか いますか?」

「ランゼ!」
筒を叩く音と同時に、筒の一つから壁越しにくぐもった・・しかし、聞き慣れた声が自分の名を呼んだ。
「ランゼ!私はここだ!!」
「カルロ様!!」

蘭世は声のする筒へと駆け寄る。
背伸びをして見上げれば・・ガラス窓の向こうに、カルロの姿が見えた。
「カルロ様ぁ・・!」
蘭世はうれしさのあまり 牢獄である大きな筒に両手をまわして抱きついていた。
「ああーん よかったあ!」
だが、そんなのんびりしたことをしている場合ではないはずだ。
「ランゼ・・ランゼ!ここから出してくれないか」
その声に蘭世ははっと我に返る。
「えへ そうでした・・・っと これかしら!」
蘭世はカルロのいた牢獄の右下にあるレバーを力任せにえいやっと引き上げる。
すると、筒が滑らかなモーター音と共に上へとせり上がったのだった。
そしてその中からは・・出張以来数週間ぶりに見る カルロが出てきたのだった。

「カルロ様!」
「ランゼ・・良く来てくれた」

蘭世は久々の再会と 無事に助け出せた喜びとで思わずカルロへと抱きついていた。
それを受け止めるカルロも 愛おしげに彼女を包み込む。
「無事で 良かったぁ・・!」
私の、大事な人が無事で良かった。
・・蘭世の心の中に 確かな何かが生まれていた。

「とにかく、ここを出よう」
「はい!」
出ていこうとする二人を、ドンドン!と壁を叩いて抗議する物音が追いかけた。
「わしも出してくれ!」
カルロはチラっと音のする方を見やると・・しわくちゃの老女が牢の一つに入っていて 必死の形相で
こちらに向かって何かを訴えかけている。
「しっ・・静かにしろ」
(誰かしら・・?)
二人はその老女が魔女メヴィウスであることなど 知る由もない・・
カルロは蘭世の肩を抱いて 西の魔女の家を後にしたのだった。
追っ手が向かってくる前に 魔界を脱出するのだ・・・


つづく


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