(2)大人げない大人と大人になれない青年と
午後の教室。
俊は自分の机で居眠りをしていた。
初めは座った格好のままうつらうつらしていたが、
そのうち両腕を机の上に組んで突っ伏してしまっていた・・・。
夢の中でも俊はジムでトレーニングをしている。
「おい、俊!スパーリングするぞ、リングにあがれ!」
コーチに言われ俊はグローブをはめてリングに上がった。
そしてリングの上にいたのは。
・・・なぜか、ダーク=カルロだった。
カルロはいつか見た時のようにスーツ姿で葉巻をくゆらせ、腕組みをしている。
そして彼は体ごと横を向いて立っていた。
「久しぶりだな、シュン」
カルロは瞳を伏せ、葉巻の煙をふーっと静かに吐き出しそう言った。
なんだかむかついてきた俊は怒鳴り散らした。
「おまえ・・・!いいかげんに成仏したらどうだ!!」
「夢の中では以外と素直じゃないか。」
カルロは横目でちらりと俊を見やる。
「自分の感情もコントロールできない青二才に私の大事なランゼの命を預ける気になれないのでね。」
「くっ・・・・!」
痛い所をつかれ黙り込む。俊はじろっとカルロをにらんだ。
相反してカルロは涼しげな顔である。
「おまえ、江藤の夢だけにしか出ないんじゃないのかよ」
カルロの顔が少し不機嫌になる。
「見るに見かねて神から許可をもらって出てきた。
シュン、最近ランゼをさんざん傷つけ泣かせただろう。大地の石も泣いているぞ」
「みてたのかよ・・・」
俊は大王が用意した家からも出て自分一人で生活をしていた。
最近ライバル校との公式試合に向けて減量中である。
それで蘭世は心配して今だけでも減量メニューを出してくれるあの魔法の家に帰ったら、
とか言ってみる。
それも断る俊に弁当を作ってあげたりするのだが
"母親みたいな事をするな、俺は自分で出来るんだ"と、
"俺は(魔界人に戻っているけど)人間として生きるのだから
魔界人には頼らないんだ"とか言って蘭世を寄せ付けなかったのだ。
「ランゼが好きなのなら何故そう彼女に伝えないのだ?逆につっぱねることはなかろう」
俊は確かに蘭世に惹かれていた。
だが、そんな想いは油断をすると突っ走って何をしでかすか判らない。
俊はそんな自分が怖かったのだ。
そうなると、均衡を保とうとついつい蘭世につらくあたってしまう。
カルロは当然そんなことはお見通しだ。
「何故彼女の好意を素直に受けない?自分の心の整理など後回しでも良いではないか」
「うっ、うるせえ!!」
俊はぶん! と右ストレートを繰り出すが、カルロは軽々とよけてしまう。
俊はギリギリと歯ぎしりをする。
すると本物の俊も教室で歯ぎしりをし、周囲の生徒をはらはらさせるのであった。
(おーい;真壁の奴、熟睡だぜ)
(先生にみつかっちまうよ・・・;)
最近吹っ切れた蘭世としてはカルロにそっくりな俊に、何かしてあげたい!と
つい思ってあれこれするのだが、つっぱねる俊にはなんだか反抗期の息子に
出くわしたような気分になってしまうのだった。
「おまえ、俺にそんなアドバイスして自分が不利になるとか思わないのかよ?」
強がる俊。
「私が望むのは唯一、ランゼの幸せなのだ。
ランゼを悲しませる者は誰であろうと許さん。」
ずっと横を向いていたカルロが突然俊に向き直った。
「それと・・・運命の輪はまだ方向が定まったわけではない」
そう言うとカルロはなにか意味ありげな、寂しげな笑みを残し霧のように消えた。
<<もし私がお前の立場だったらランゼを手に入れる千載一遇のチャンスだと思うのだがな・・・!>>
そんなカルロの言葉が追い打ちのように俊の耳に突き刺さった。
授業が終わるチャイムで目を覚ます俊。
「・・・いったい、俺にどうしろって言うんだよ」
頭をふりながらのろのろと立ち上がる。
夢の中の俊より目覚めているときの俊の方が冷静だ。
強がっている自分がいることも認める。
だが。蘭世の夢に今でもあの男は来ている。
冥王はまだ魔界と俊の命を狙っており、これからまだまだ先行き不明である。
カルロの助言=生命の神の助言 は必要で、蘭世の夢に出てくるなとは言うことは出来ない。
と、言うことは蘭世の心は今でもカルロのものじゃないか。
蘭世のことは好きだが、俊は蘭世が自分のことを好きであれこれ
優しくしてくれているわけではないのをわかっている。
蘭世は自分の姿の向こうにあるカルロを見ていることを。
優しくされる分だけ、辛いのだ。
(ちぇっ、カルロの奴、結局は俺をからかいに来たのか??)
「頭いてぇ。」
そうつぶやいて放課後のトレーニングに向かうのであった。
3章5話 完