はじめに。
このお話は 去年のカルロ様誕生日記念:『ルーマニア・レポート』
および
カウプレで書いた『カーミラの微笑み・ルーマニアレポート2』の続編となっております。
ご興味のある方は、こちらを読まれてから進むと より良いかも知れません・・
念のため お知らせでした。
0)
ルーマニア 11月 朝・・・
昨夜、夜遅くモナコのパーティーから帰宅したカルロとランゼは、少し遅い朝を迎えていた。
ただならぬ事件に巻き込まれて憔悴しきったランゼは、未だ目が覚めない。
すぐそばで眠る彼女を気遣い、カルロはそっと肘をついて上体を少し起こす。
空調は整っているが、さすがに11月ともなると底冷えて空気が裸の素肌には冷たい。
(もう 気分は落ち着いたのだろうか・・・)
カルロはベッドから抜け出そうとして体を起こしかけたのだが、
ランゼの事が気になり そのまま肘をついて横になっていた。
深く眠っている様子のランゼにカルロはほっ、とする。
実は昨夜のパーティでカルロとランゼは物騒な事件に巻き込まれ、
ランゼが突然暴れ出したQ国スパイの人質に取られてしまったのだった。
そこはカルロがそのスパイ男を射殺してランゼを救いだしたのだが
あまりのことにランゼはショックをうけてしまい、昨夜なかなか眠りに落ちることが出来ず
ずっと夫であるカルロの胸の中で震え続けていたのだった。
(まさか 自分たちがあの場所で事件に巻き込まれるなど 私も油断したものだ・・)
ファルコン、という無法者にランゼを捕られてしまうなど、それ自体がまず自分の失態だった。
自分の能力がなければ、もし自分がただの人間だったら ランゼはどうなっていたかを考えると
背筋が寒くなる。
(私は どんなことをしても お前を、そしてファミリーを守って行くんだ)
それが時にはアンフェアだとしても構わない。
自分の持てる力は 必要なときに必要な分だけ、使えばいいのだ。
そう、自分が正しいと思う事を貫くために・・・
カルロは無意識に 人差し指の背で、眠る愛しい妻の頬をそっと撫でていた。
「ん・・・」
彼女はしどけなく身じろぎをし・・長い睫毛の瞳をゆっくりと開く。
「あ・・おはよう、ダーク・・」
「おはよう」
ランゼは小さく伸びをして、カルロに微笑みかけた。
「今日も私は休暇を取っている。・・こないだ行きたがっていた映画館へ行ってみるか?」
「えっ 本当!?」
それを聞いて、一気にランゼは目を覚まして飛び起きた。
「うんっ 行く行く」
「では 早速支度だ」
カルロは少しでも蘭世の気分転換になればと 映画を見に行く事を提案したのだった。
「ねえダーク」
起きあがりベッドから降りようとするカルロの腕に、ランゼはそっと小さな両手を添えた。
それにカルロは気づき、ランゼを振り返る。
そこには、少しはにかんだ顔の若い妻。
「あの・・・昨日は気が動転して言えなかったんだけど・・」
「?」
「ダーク、私を助けてくれてありがとう・・
あのとき、きっとダークじゃなかったら 私きっと・・連れ去られていたわ
うん、 それにきっと撃たれてた」
昨日は恐ろしさでただ震えていただけだったが 今朝になって
ランゼなりに ”昨日の出来事を現実として受け入れる”ことができたようだ。
それはランゼの生来の強さなのか、それともカルロの妻としての自覚がなせる技なのかは
わからない。
「お前が無事で 本当によかった・・」
カルロは元々口数が少なく、返事はシンプルだったが その言葉には強い想いがこもっていた。
「ありがとう、私の強くて素敵な旦那様・・なんちゃって。きゃ〜っ」
言った端からランゼは照れの極致になり、顔を真っ赤にして 子供のようにカルロの肩を
ばんばん!と照れ隠しにたたき始める。
「・・こら。」
(この分なら 元気を取り戻せたようだな・・・よかった)
相変わらず立ち直りの早いランゼの心の強さに、カルロは密かに感心もするのだった。
「きゃ・・」
カルロは少し何かを思い・・素裸のランゼを立て抱きに抱き上げて立ち上がった。
抱き上げているカルロとて一糸纏わぬ姿。
「ふふっ ちょっと寒いね・・!」
「このままシャワーを浴びに行こう。バスタブに湯を張ってつかれば身体も暖まる」
「うん・・」
「愛しいおまえの顔をよく見せてくれ・・ランゼ」
「ダーク・・」
そう言ってとろけるような視線で見上げてくるカルロに、ランゼも照れながら応える。
(私の たいせつな人・・・)
”私は、この人に出会って良かった。”
ランゼは愛おしげに、なよやかな両手で彼の頬や額に触れる。
お互いを愛しく思う想いが二人の視線を絡ませる。
<<ランゼ お前の唇が欲しい>>
突然、ランゼの頭の中に声が響く。
「えっ あ・・!」
それは、カルロのテレパシー。
当の本人は黙ったまま悪戯っぽい笑顔をこちらへ向けている。
「ふふ・・」
ランゼは照れて カルロの額へその額をこつん・・とあてる。
「うふふ・・!」
<<私も、今 ダークにキスがしたいな>>
照れはランゼに笑いを零れさせる。
ランゼはカルロのこめかみに、両頬に、そして・・
唇へ柔らかく、その唇を重ねていった。
◇
二人は朝から甘いバスタイムを愉しみ、一通り身繕いが終わろうとしていた。
それを見計らったかのように、私室のドアがノックされる。
「失礼いたします、ボス・・」
部下の一人がドアのところで畏まっている。
「・・どうした」
部下は畏まったまま中へは入ってこない。
「・・・」
カルロは重要な伝言を持ってきたらしい様子の部下の元へ歩んでいく。
ボスと2つ3つの言葉を伝えると、部下は恭しく一礼してからその部屋を退いた。
「どうしたの?」
スツールに座って髪の毛を梳かしていたランゼは、その手を止めて
居間と蘭世のドレッサーのある部屋の境から彼と部下の様子をずっと伺っていたのだった。
「ベンが珍客と話をしているらしい。様子を見てくる」
少しの微笑みと・・仕事に対する緊張感とを混ぜた表情でカルロはランゼの元へ歩んでくる。
「えっ 珍・・・客??」
不安げなランゼの表情に、カルロはふっ、と微笑みその額へ軽く口づけた。
「大したことはない。すぐに戻ってくる」
「今からすぐ行くの?ダーク、朝食は?」
「私は後でとるから、ランゼは先に食べていなさい」
「ん・・」
きびきびとした足取りで、急の仕事へ向かうカルロをランゼは見送った。
邪魔をしてはいけないと、カルロの指示へ素直に頷いたランゼだが、
カルロが朝食をとれるようになるまで ランゼは自分も食べずに待っているつもりだ・・
一族のしきたり というわけではない。
ランゼは心から、そうしたいと思っているから こういうときは いつも待つのだった。
つづく
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