『−Labradorite− ラブラドライト』

(3)


清々しいはずの朝なのに 蘭世の心には重い雲が立ちこめて
温かく明るく そしてやわらかい日差しの中 リネンのシーツにくるまって
ゆっくりと時を楽しんでいたのは目覚めるときまでのこと

いつもだったら目覚めたとき もうそこにはカルロの優しい眼差しがあるのに
悪い夢見で 蘭世はまだ闇の残る早朝に目覚め、眠るカルロの横で いてもたってもいられず起き上がる
蘭世は自分の口元に祈るような仕草で両手を当て どうしよう なにからすればいいのと思案に暮れる

「どうした?」

隣の気配にカルロも続いて目覚める 夜明け前 今朝は早いんだなと訝しく思う
蘭世にガウンを手渡しながら自らも揃いのそれを羽織る

「・・・・ダーク・・・私・・私・・・」

蘭世は今しがた夢で見た事をカルロに伝える

人間が悪事を働いている
魔界の・・・おそらく”想いが池の水”を使って

「絶対・・・ミスターZよね そんな悪いことをするのは」

カルロの顔色が その表情が みるみるうちに曇っていく

アロン・・魔界の王が夢に出てきたって?
そして あいつが例の窃盗団の情報を 蘭世に直接話しただと・・?!

「まったく あの男はなんてことを・・!」
彼の口から思わず舌打ちと神を呪う言葉がこぼれ落ちる

ベッドの上で片膝を立て座り込んでいた彼は眉間にしわを寄せ額に手を当て
俯いてため息を付く

あの男は 私が必死に護っている物を 一瞬でぶち壊してしまった
蘭世にだけは知らせてはならないと思っていたことを 何故!

現実の世界には垣根を作ることが出来ても
私には夢の中まで束縛することが出来ない
あの男は悪気はないだろうが その隙をつかれた それが余計腹立たしい

「そんなことはこの私に直接言えばいいではないか・・・」
何故そんな回りくどいことを。
そして 何故 何故と頭の中で
悔しさと苛立ちとがぐるぐると渦巻いていく

普通だったら夢話だよと 何を寝ぼけているんだとごまかすのもいい
だがこれには通用しないと カルロは判っている
私が知らぬ振りをして一笑に付しても きっとランゼは自分の信念に基づいて
私の元から飛び出していこうとするだろう たった1人で
それだけは阻止しなければ

「流刑だと言ったのか あいつは」
「うん・・・」

人間であるZに魔界の道具を渡した罪は重い
死ぬことが叶わない永遠の命を持つ者は 永久に続く苦しみ 無の世界へ送り込まれる

だが。
想いが池の効能など その場限りだというのに
時が経てば無くなる物だから 静かに嵐が通り過ぎるのを待とうと思っていたのに
水筒の水は捨ててしまったから Zの手元にはわずかしか水は残っていないはず

「私が直談判に行こう あの男のところへ」
「えっ」
「しばらく待てば終わる騒動に何故わざわざ手を入れなければならんのだ」
「あの男っ・・て?」 
察しの悪い蘭世に、カルロが優しく教える
「ランゼ、魔界の王だよ」
「アロン?!・・Zさんじゃなくて?!」

カルロはベッドから勢い良く降り念力で部屋の照明にスイッチを入れると
つかつかと早足でバスルームに向かう
その背中は蘭世から見ても怒っている様子だった

取り残された蘭世は 一瞬頭の思考が止まってしまっていたが 慌てて彼女もベッドから
転げ落ちるようにして降りる

Zを追いかけないで アロンのところへ行くの?

「わっ 私も行く!」

蘭世も寝起きで足をもつれさせながら バスルームへカルロを追いかけていった






ここは暗闇。
部屋の中央に大きな水晶の玉がしつらえてあり それが自らぼうっと光を放っている
それに手をかざす 節くれ立った茶色い手

「・・・ようやっと ひっかかったよ」

闇と同じ色のフードを深く被った人物から くぐもった 男とも女ともつかないしわがれた声が
薄い忍び笑いと共に 染み出すように流れ出た

「さすがにアロン王の登場は利いたな まだばれてもいないようだし
 まったく手間取らせおって・・さてさて あの男にも伝えてやらねば 朗報だよ」

水晶には 身支度を整えるカルロと蘭世の姿が映し出されて
フードの人物が”あの男”、と呟いた途端 水晶の下半分に銀髪のオッドアイをした人物が
ぼんやりと浮かび上がってきた


早く来い、魔界へ。
さあ、おまえにチャンスが訪れるよ
早く 自分の欲しい物を手に入れるがいいさ・・・Z。





続く

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