『−Labradorite− ラブラドライト』

(6)



天空には巨大な月が浮かび
地上には霧たちこめる 
灰色にかすむ世界

ここは 魔界。


カルロが目覚めたその部屋は 意外と広くて窓が大きく取られ 月明かりが良く入る、明るい部屋だった。
(ここは・・・どこなんだ)
私は囚われているようではないらしい・・ では??

ベッドの上でたった今目覚めた彼は そこに膝を立て座りこみ 肩を落としうなだれる
気を失う前の記憶が すぐさま甦ってくる。
(なんて・・・ざまだ)
私は ローブを被った怪しい人物に 昏倒させられたんだ しかも・・・

カルロは自分の首へ手をやる。
あれはやっぱり悪夢などではなく 残酷な現実だ
なにかごつごつと表面に装飾を施された首枷が しっかりとはめられているのだった。
そして 気のせいだろうか ・・・心なしか身体が重く感じられる・・・
「・・・」
カルロは窓辺に置かれた花瓶を じっ と睨み付けた

「・・・」

・・・だめか。
花瓶は 浮くことも 割れることも しない。
やはり私は 能力を全く封じられてしまったらしい・・・
この、忌々しい首枷で。

(ランゼは どうなったんだ)

周囲を見回しても 蘭世の気配は見あたらない。
蘭世にも同様の首枷がかけられたことを思いだし 眉をひそめる
(ランゼは無事なんだろうか・・・)
ベッドから降りて彼女を探しに行こうと腰を浮かせた途端・・ドアがノックされた。

「よっ 目覚めたな」

軽いノックと、それへの返事を待たずにドアが開く。
カルロが懐から拳銃を出し身構えていると・・・どこかで見たことのある 人なつこい顔の男が顔を出した。
「おいおい、そんな物騒なもん仕舞ってくれよ」
それは 死神ジョルジュの家だった。
ジョルジュはポットとカップが載ったトレイを手に中へ入ってくる。
サイドテーブルにそれらを置くと、彼はそばの椅子に腰掛けてのんびりとお茶を入れ始めた。

「さっきは危機一髪 て感じだよな。」
「ここは・・?」「おれのうちだよ」
「お前が助けてくれたのか・・・」

その問いに ジョルジュはニッと笑う。
「なんか やばいことになってるみたいだな。・・まあお茶でも一杯飲んでひとまず落ち着けって」
「・・・・・」

ジョルジュが紅茶をすすめながら カルロを救った顛末を軽く説明した。
たまたまそばを通りかかったジョルジュが様子を窺っており 
落下するカルロを死神の雲を駆り空中で受け止めたのだった。

「わたしが・・谷へ突き落とされたのか」
「ああそうだよ。なんだかやばい雰囲気だったから、カルロ・・おまえだけこっそり助けるのが精一杯だったんだ。
 見つかったら元も子もないよなーって思ってさ」

「・・・では ランゼは・・・?」
「あいつらに連れて行かれちまった。」
ジョルジュが苦々しい顔をして 横を向く
(ランゼは・・・あの得体の知れない連中の手に 落ちてしまったのか・・・)
ジョルジュも申し訳なさそうな顔をしている。だが自分を助けてくれただけでもありがたいと
思わなければ・・
「・・・」
カルロはこぶしをぐっ と 無意識のうちに握りこんでいた 
今すぐにも飛び出していってランゼ助けたい。だが・・・
闇雲に出ていっても無駄なことだけは 判る。

魔力を手に入れたといっても、専ら人間の世界で生きてきたカルロにとって
不可思議な魔法の脅威は未知の世界。殺気を感じても それが襲いかかってくるまでの間合いや
回避する方法など 人間達の繰り出してくる暴力に対するそれとはまた違うものなのだと
今回の事件でイヤと言うほど思い知らされてしまったのだった。
そして・・

「話をコッソリ聞いてたんだけどさ ほんとに能力が封じられちまったのか?」
「・・・そのようだな・・・」
テーブルの上にあるコップ一つさえも 空中へ浮かせることが出来なくなってしまったのだ。
また、元の人間に逆戻りである。
「・・そういえば シュンもこの首輪をつけられたと聞いた」
「なんだって?!」
ジョルジュはそれを聞いて顔色を変えた。
「ローブを被った人物は 何か”目的がある”、と言っていた」
「こりゃあ、カルロ、お前だけの問題じゃなく魔界の問題だな。
 魔女メヴィウスに相談してみるか・・きっともう何か詳しいこと知ってるにちがいないな」

にしても 何故なんだ。
今回の事件は Zが敵ではなかったのか?
何故私が魔界の者に狙われなければならないんだ

ジョルジュが飲んだティーカップを皿に戻しながら 視線を宙に浮かせている
頭の中でめまぐるしく考え事をしている様子だ。
「そういえばお前を谷へ落としたのも、蘭世を連れてったのも人間だったぞ?この事件人間も咬んでるんだな」
「人間?」
そういえば私とランゼを取り囲んだのは 魔界人らしくない格好だった・・
それはまるで アラブの軍人だった。
「ランゼを連れていったのはローブの男ではないのか?あれは魔界人だった」
「いいや、人間のほうだ。銀髪の男が人間界の方へ連れていったぞ」
「なんだって?!」
カルロは突然ベッドから飛び降りジョルジュに詰め寄った。
「銀髪の・・長い髪で オッドアイの男か?!」
「・・ああそうだったな・・・ 長い髪で・・オッドアイかどうかはわからんが・・おまえの知り合いか?」
その問いにカルロはギッとジョルジュを睨み付ける。
カルロのただならぬその様子にジョルジュはたじろぐ。
「やっわりい ・・とにかくそいつらが蘭世を浚っていったんだ・・
 オレ、すぐ姿をくらましたし遠目でよくはわからなかったけどな」
カルロはその返事に、ジョルジュに詰め寄っていた半身を起こし・・ふぅ、と短く息を吐いた

アラブの・・そうだ。あの男、今はアラビアに潜伏しているんだ
以前ランゼを拉致していたのも アラビアの宮殿だった!

・・・冷静にならなくては・・・
「世話になった。何か判ったら知らせてくれ」
カルロは短くそう言うとその部屋から出ていこうと戸口へ足早に向かっていく。
ジョルジュは慌てて立ち上がり、その背中に声をかけた
「おい待ってくれ、おまえもメヴィウスのうちへ行かないか?」
「時間がない 失礼する・・またあとで連絡する」
蘭世を助けるあてがカルロに有るらしいと悟ったジョルジュは 素直に引き下がった。
「わかったよ・・あっそうだ、想いが池なら向かいの森をこの家からまっすぐ抜けた向こうだよ」
ジョルジュのアドバイスに短く頷き カルロはその部屋を抜け、ジョルジュの家から出ていった。


鬱蒼とした森の中を走っていく そこには低く霧が立ちこめて

(やはり・・・やはりあの男が・・!)
不敵な笑みを浮かべる銀髪のオッドアイが脳裏に浮かび カルロの表情は一層険しくなる
しかも魔界の輩と手を組んでいるだと?!

カルロは彼らしくもなく 唇をぎゅ・・と 噛み締める

魔界の事など自分には関係ない。
あの男のそばにランゼがいるのが 何よりも 許せない・・・!!

魔力が封じられた今は ただひたすら自分の足で走って行くしか、ない。
森はいつまでも いつまでも続き 迷わされているような気分にさせられる
だが、カルロはひたすら黙々と 森を走り抜けていくのだった・・・


続く

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