『−Labradorite− ラブラドライト』

(8)


森は突然終わりを告げ、カルロの目の前に広々とした野原が拡がっていた
それはなだらかな緑の起伏を描いており 
くぼんだ所には霧がわだかまっているのが見える

その霧のわだかまりのひとつに 想いが池がかすんで埋もれているのが見えていた
カルロはその場所へ わき目もふらずまっすぐ駈けていく

しかし。

「・・・・」

想いが池の水面が霧の向こうから見え始めたとき・・
カルロの駆け足が急に止まった。

(・・・まさか、そんなばかな。)

カルロの表情が強張る。
だが、はっきりと確認しなくてはと 池のすぐ側に向かってもう一度走り出す。 

「凍って・・・いる」

池の淵に立ち水面を見下ろす。びくとも動かない池の水面を風がただ空しく
通り抜け 冷えた空気をカルロの頬にたたきつけるだけである・・
その水面の色を見ても 薄氷などではない。完全に池の水は凍り付いている・・
「なんてことだ」
だが 誰が、どうして などと考えている場合ではない。
ここに留まっていても蘭世の元へたどり着けない、判ったのはそれだけだ。
(今の私には この氷を溶かすこともできない)
カルロは思わず自分の首に手をやり、不格好な金属製の首枷に触れる
それはカルロの魔力一切を封じる禍々しい装飾品であった
(私としたことが・・・一生の不覚だ)
何故あの場で油断したのか 今もって自分自身が腹立たしい・・

ランゼがあの男に捕まっている。一秒たりとも無駄にしたくない
早く、早く助けださなければ。

怒っている時間も惜しいと言わんばかりに 無表情でカルロはきびすを返す

あの男が連れていったのなら、ランゼはきっとまだ人間界だ。
(あの宮殿に乗り込んでやる・・ヘリを飛ばそう)
精鋭を何人か連れていくか・・武器はどれを選ぶ?
カルロの頭の中で今までの情報がめまぐるしく駆けめぐり
蘭世を救出する計画の大筋が出来上がっていく。

(左に魔界城。では人間界への入り口は この坂を下った右・・)
魔界城を見上げる横顔に 彼の金色の髪がまとわりついていく
カルロは方向を見定めると、再び走り始めたのだった。

ここまでたどりつくまでに彼は相当走っており息は上がっている
だが、立ち止まり休む事などできはしない、したくもない
休息は彼の行動を妨げる事項にしかならないのであった





メヴィウスの家を訪ねたジョルジュは留守に肩すかしを食らい
もしや・・と思い王宮へ向かった
魔界城に辿り着き、ジョルジュは城の門番に声をかけようとしていたところだった。
「おい!」
聞き慣れた声が遠くから近づいてくる。
「ジョルジューっ!」「・・あ」
サンドがこちらへ向かって手を振りながら駈けてくる。
「ジョルジュ!・・おいこっちだ 来いよ」
「一体どうしたんだよ」「いいから黙ってついてこい、魔界の一大事なんだ」
ジョルジュが自分に気づいたと確認してから、サンドは手招き一つして元来た場所へ駆け戻っていく
「わわっ待てっ」
ジョルジュも慌ててそれを追いかけた。
裏口から建物の裏、狭い道をサンドが小走りに駈け抜けていく ジョルジュもそれに追随する
サンドの身軽な服装と違い、ジョルジュのそれは裾長く足にまとわりついてくる
それをなんとか片手で引き上げさばきつつ ジョルジュは王宮の片隅を走り抜けていった。
それは広間への近道だった。
(こんな道があったのか・・・)
広間の裏口から ジョルジュとサンドはそっと中を伺う


アロン王が玉座から降り、長い階段を下り 謁見の者と正面に対峙している
明らかにいつもと何かが違う・・・

耳障りにしわがれた声が 広間に響いている

さあ どうする 若き魔界の王よ
お前の返事一つで世界は救われる
それとも お前の目の前でこの世が崩れ落ちるのを見てみたいのか

「・・・!」

そなたの兄の力はすでに封じてある ほれこのとおり
そして人間界にいる例の男もこの世にはない

「おい・・・!」
 
巨大な鳥篭のような檻がふいに ローブを深く被った人物の横に現れる
そこには、アロン王の双子の兄・・俊が入れられていた

「なんたる狼藉、なんたる侮辱・・!」「俊が!?」
メヴィウスはすかさず両手を広げ魔法を唱える。すると俊を囲っていた
檻はあっけなく消滅する。だが・・・
「なにっ!その首輪どうして外れないんじゃ?」
愕然としたメヴィウスの顔を見て、ローブの人物がくっくっと喉で笑う
「無駄じゃよ、無駄無駄。そして、その首輪のおかげで王の兄もただの人間さ」
「俊!」
アロン王は急いで俊の元へ駆け寄る
「俊!大丈夫なのか?!」
「・・ああ なんてことねぇ」
ジム帰りだったのか、彼はTシャツにジャージのラフな格好であった。
そして、むき出しの首に 赤茶けた金属の首輪がはまっている。
それを見てアロンはおそるおそる訪ねた。
「ただの・・人間なのか?!」
「さあな・・だが魔力は消えちまったみたいだな」
シニカルな笑みで・・自嘲ともいえるその表情で 俊は短く答えた。
「なんで おまえがそんな・・!」
「悪い。油断した」
「・・・・!」
アロン王は信じられない・・!といった表情で唇をかみしめた。





続く

◇Next◇ ◇戻る◇ ◇第1話へ◇
閉じる
◇小説&イラストへ◇